魔王追放 ~ゆとり政策を進めていたら魔王軍から追放されたので、人間界で聖騎士団学校の教官に転職しました。ゆとりある指導で最弱チームを最強に導く~

中田原ミリーチョ

第一章 魔王追放

第1話 トイレに行ったら魔王追放


 魔王城最上階の一室。魔王軍最高会議室は厳かな雰囲気に包まれていた。


 議題は大陸の南半分を支配する人間侵略について。


 蝋燭の灯だけが頼りの薄暗い室内で、出席者の魔王軍四天王はテーブルを挟んで議論する。

 スライム族の長スラグランが「西と東に戦力を分散して挟み撃ちにしてみては?」と言えば「いや、防衛ラインの維持を優先させるべきだ」とケンタウロス族の長ケンタウロロイスが言う。「ふん。小細工無用。まっすぐ潰しにかかればいいだけのこと」魔人族の長ガランが屈強な腕を組んで両者をけん制し「落ち着いてあなたたち。まずは今月の被害状況の確認が先よ」サキュバス族の長ユミレが舵を取る。


 魔王軍の未来を決める大事な会議。加えて優れた意見を出すことができれば次期魔王の座が近づく。集団としても、種族としても、個人としても、この会議にかける想いは強い。


 静かに、しかし熱い議論が黒石のテーブル上を行き来する。口論が行き過ぎて一触即発になる場面もみられるほど。


 熱を帯びる会議室。


「ちょっといいか」


 一時間が過ぎたとき、低く落ち着いた声が議論を止めた。

 狭い空間に緊張が走る。

 四天王が一斉に議長室に顔を向けた。


「どうしましたか? 魔王様」


 無言を貫いていた魔王の突然の発言。議論の内容に不満を抱いたのだろうか。ユミレが恐る恐る尋ねる。


 対して、魔王。右手を挙げておずおずと言った。


「すまんが、トイレ行っていいかな?」

『…………』

「さっきから我慢してたんだよ。でもお前たちの緊張感が凄くてなかなか言い出せなかった。でももう限界だ」


 よっこいしょ、とオッサンのように立ち上がり、全身を覆う甲冑をカチャカチャと鳴らしながら部屋を出た。

 場を乱された四天王は呆れてため息をつくことしかできなかった。





「ふー。出た出た。めちゃ出たわぁ。人食いフィッシュが住んでるクロニカ湖あるだろ? あれくらい出た。我、小便で湖作れるかも」


 雰囲気ぶち壊しで戻ってきた魔王。どっこいしょー、とオッサンのように座る。


「……そうですか」

「しかしお前たち。もっと緩い雰囲気で話し合った方が良いんじゃないか?」


 甲冑の奥に揺らめく赤い目を細めて笑顔を作る魔王様。


「こんな固い雰囲気だと気軽にトイレにも行けないじゃないか。我なんて邪魔しちゃ悪いなと思って我慢したせいで、膀胱が湖になったんだからな。もう少しで大洪水だよ。魔王城が魔王の小便で流されたってなったら人間から笑われちゃうよ」

「……魔王様。たった今議論が終わり、採決の途中です。我々は全員賛成。あとは魔王様だけです」

「あ、そう。じゃあ賛成で。お前たちを信用しているからな。うんうん。全会一致はいいことだ。で、何が決まったの? 軍の施設の増強? 配給の件? それとも人間との交渉? あ、このあとの打ち上げの話とか?」


 呑気に尋ねる魔王に、ユミレが淡々と答えた。


「魔王様の追放です」

「はいはい。それじゃあさっそく手続きしないと……え?」

「魔王様。今からあなたは元魔王です」

「へ?」

「では。これにて会議は終了です。ありがとうございました」


 席を立ち、部屋を出る四天王。


 残された魔王は席に着いたまま茫然自失。


「え? 我、追放?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る