裏山で

 校舎裏には、山があった。

 小さな山だから、頂上まで登っても、10分とかからない。

 とはいえ、

 制服とローファーで登ろうというは、

 中学部に入学したての新入生ぐらいだ、という話も聞いた。


 わたしは、

 友人から誘われるまで登ったことがなかった。

 昼休みに登って下りてこれるから、

 との誘いに、

 気軽に返事をしてしまったことを後悔しながら、

 山を登った。


 けれども、

 山頂で見たものは、

 来てよかった!

 としか、言いようがなかった。


 なんと、

 先客がいたのだ。

 先輩がいたのだ。


 先輩は、慣れた調子で山を歩いて。


「そこ、足元、気を付けてね」

 と、

 後輩であるわたし達を気遣ってくれた。


 来てよかった。

 誘ってくれた友人に、

 ありがとう、と心の中で言ってみた。


 友人は、

「何もないところだね」

 と、期待外れな声を出して、

 早々に山を下りようとしていたけれど。

 わたしは、

 先輩と過ごせたこの一瞬が

 手放しがたくて。

 もう少し、ここからの景色を見ていたいな、

 なんて適当な言い訳をして。


 その姿を先輩が見ていることにも気付かずに。

 わたしの発言に先輩がうなずいたことにも気付かずに。


 眼下に見える校舎を眺めていた。

 視界のはしに、先輩の姿をとらえたくて。


 もう少しだけ、

 先輩と同じ場所に居たいって、願っていたの。














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