夏期講習

 夏休みは、先輩に会えない。


 それがイヤで、

 わたしは、夏期講習に励んだ。


 希望者だけの補講だったけど。

 ほとんどの生徒が申し込みをしていて。


 高校3年生で受験を控えた先輩は、

 補講中は毎日学校に来るって話を耳にしたこともあって。


 先輩に会えるかも、って淡い期待で、

 わたしも補講期間中は、毎日学校に来た。


 もともと、他校より早く夏休みが始まる学校だったこともあって。

 毎日、学校へ来ることに違和感はなかったけど。

 両親も、熱心に学校に通うわたしを応援してくれていたし。

 それが、まさか、

 先輩に会いたいがためだなんて、露とも気付いていないだろうけど。


 一応、夏休みだということもあって、

 補講は午前中で終わったし。

 休み時間はゆったりと過ごせたから。

 いつもより、

 校舎の中で過ぎていく時間がゆっくりに感じられた。


 それに、

 普段は中学部の生徒は使うことが禁じられている飲み物の自動販売機も、

 夏休み期間は使ってもよいというウワサがあって。

 あくまでもウワサだったから、

 わたしは、実際に使う勇気はなかったけれど。

 友人に誘われて、自販機のある高等部の校舎裏へ行ってみたりして。

 そうしたら、

 偶然にも先輩の姿が見られるかなぁ、って。


 その偶然が、実は、何度かあって驚いた。


 高等部の校舎に行くだけでも緊張するのに、

 そこに先輩の姿を見つけた時には、

 本当に、びっくりして。

 嬉しくて、言葉も出なくって。


 先輩が自販機で飲み物を買う姿は見ることはなかったけど。

 わたしと同じように、友人に付き添って

 そこにいる姿を見られたことが。

 わたしは何より嬉しくって。


 先輩の笑う姿をこの目に焼き付けようと、必死だった、と思うの。



 そんな、夏、だった。






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