見たことのない、けれど見覚えある風景にて。

 最初に思ったのは、小説やマンガでありがちなこと。

(ここは、一体どこでしょう……)

 見渡す限り、草原が広がっています。

 風は、気持ちいいくらいの強さで吹いている。

 だけど、風の心地よさを感じられるほど、今、私の心は落ち着いていられない。


 でも、それと同時に、どこかほっとしている自分もいて。

 そこでふと、思い出したんだ。


「ああ。……そういえば、そうだった……」


 自分で望んだんだ、と。

 ここではない、別の場所に行きたい。そう望んだのは自分だ、と。

 そう気づいたら。

 なんだか、とても気持ちが楽になった。


「……これから、どうしよう……」


 確かに、ここではない別の場所に行きたい、そう願った。

 でも、そんな願いは叶うはずがない、そう思って言っていた。

 でも、思わぬ形で願いが叶ってしまった。

 見知らぬ土地で、見知らぬ世界で、私は生きていけるかな。

 生きていけないんだとしたら。

 ああ、やっぱり元の世界で生きていたらよかった、と思うのかな。


 そんなことを、ぼんやり考えながら遠くを眺めていると。


「あれ……」


 うっすらと見えている建物。その建物は、どこか見覚えがあった。

 もちろん、分かってる。この世界に来たばかりなんだから、見たことがあるはずがない。

 だけど、あの建物を知っている。そんな気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る