第22話 如月との戦い

 「死後選択の大鎌ヘブン・オア・ヘル


 「変わった形だね」


 「普通の大鎌よりも独創的で魅力的じゃろ」


 それはどうかな?


 わたし的には敵、如月の方が十分に死神の鎌っぽいし、魅力的だと思うよ。


 どんな性別性格、外見だろうが敵なのは変わりないし、容赦は必要ないと思っている。


 「行くのじゃ!」


 「⋯⋯その力、前のレッサートカゲを殺したのはお前か!」


 邪気を認識できている様子だ。


 前のドラゴン、やっぱりと言うべきか、死神教団が関わっていたようだ。


 死神ちゃんが丸ごと消し炭にしたから、証拠はないけど。


 今の発言ではっきりとしたね。


 「僕に勝てると良いね」


 相手も邪気に似たエネルギーを鎌に纏わせて、襲って来る。


 大鎌が衝突して、火花と衝撃波を散らす。


 「なかなかやるね。これならどう?」


 「火炎を纏わせる事くらい、我にもできるのじゃ!」


 互いに黒炎を鎌に宿らせる。


 その濃さと大きさは当然、死神ちゃんの方が大きかった。


 互いに残像を生み出すほどの高速連撃、わたしじゃとてもじゃないがそのスピードを追えない。


 「すごい! アバラギさんと似ている力を使っている人間に初めてあったのに、ここまで強いなんて!」


 如月から全くと言って良い程余裕が消えない。


 それは死神ちゃんも同じである。


 死神ちゃんと近い力ってのは邪気の事だと思うけど、それだったら如月も同じだ。


 もしかして、相手本人はそれを自覚してないのか?


 「でも、君も僕は救いたいと思っている! だから、抵抗なんてしなくて良いんだよ。完璧に救済してあげるから!」


 「はんっ! 殺す事が救済だと? 頭のネジが数億本くらい抜けてるんじゃないか?」


 「⋯⋯は?」


 刹那、鎌での連撃から突然突き刺すような蹴りが死神ちゃんに食い込む。


 「かはっ」


 死神ちゃんは血を吐きながら後ろの壁に突き刺さる。


 たったの一撃の蹴りでかなりのダメージを受けた。


 本来ならありえない。


 この程度ならそこまでダメージにならないし、再生してすぐに元通りになる。


 なのになんで?


 「ふざけるなよ。少しちょっと僅かに人よりも強いからってさ、生意気すんじゃねぇよ。僕のやっている事は殺しじゃない、救済なんだ! なんで皆嫌がるんがよ! そっちの方がおかしいよ!」


 「おかしいのは、お前だ。振り返ろ。前のやって来た事を。一般人の生活を見て来たのかお前は!」


 再生させるための時間稼ぎが必要のようだ。


 「僕は普通だよ。何も間違ってない。間違っているのは君たちだ。皆そう言うんだがら、間違ってない」


 「間違った奴らの間違った言葉を真に受けるな! どんな理由があろうともな、殺しは殺しなんだよ! その事実や罪は変わらない! ずっと心に入り込み蝕む、一種の呪いだ!」


 「罪? 罪じゃないって、これは慈善事業だよ」


 そんな訳ない。


 本当に、どんな理由があろうとも人殺しは人殺しだ。


 どんなに幼くても、どんなに混乱していても、殺したと言う事実と罪は消える事は無い。


 その時の後悔の念は永遠と心を蝕むんだ。


 狂っている。


 殺す時に一切の躊躇がなく、後悔しないなんて、おかしいんだよ。


 「世の中に死んで良い命は無いんじゃ」


 「でも君だって何人か殺して来てるでしょ? 僕には分かるんだよ」


 「あぁそうじゃよ。『死んで良い命』は無い。でも、『死ぬべき命』はある。罪を犯して世界の害悪になる存在だ。我やお前のような!」


 「は? 僕が死ぬべき命だって言うのか? この世の地獄から解放してあげている僕が? 誰も苦しまない、怒らない、最高の開放感を与えている僕が?」


 心の底からそう思っているんだろうな。


 小さい頃から教団にそうやって言われて育ったのか、元々がそう言う性格なのかは分からない。


 でも、無実の死ぬべきじゃない命を殺し弄ぶのは違う。


 それは止めないといけない。


 一被害者として、止めないといけない。


 「だから君も、こんな苦しいだけの無駄のある抵抗は止めなよ!」


 黒い魔弾が飛んで来る。


 「ブラックキューブ」


 死神ちゃんは黒い立方体を顕現させて放ち、相手の魔法と相殺させる。


 煙が立ち込める中、二人は同時に煙の中に入る。


 相手が入ったタイミングはわたしが見ている。


 「当たらんのじゃ!」


 「そっちもね!」


 死神ちゃんは攻撃を避けて、如月は攻撃を防いだ。


 互いにバックステップを取って距離を離し、煙は消える。


 「お前はどれだけ、泣いている人間を見て来た! なのに、なんとも思わんのか! 家族が死んでいく遺族の涙と慟哭を知らんのか!」


 「知ってるよ。でもね、きっとあの世で幸せになっているはずだよ。何せ僕が救済してあげたんだから」


 さっきから救済救済。


 ふざけているようにしか聞こえないんだよ。


 「死が救済になる訳が無い」


 死神ちゃんが驚く。


 わたしも驚いた。


 今のセリフは完全にわたしの強い意志で無意識に死神ちゃんが呟いているからだ。


 まさかこんな事が可能だったとは⋯⋯死神ちゃんの力が回復しているのかな?


 でも、死神ちゃんの力が回復した理論でわたしの意識で死神ちゃんを無意識に喋らせる事が可能になるのかな?


 「何度言わせれば気が済むんだ! 苦痛無き世界に行ける為の準備だ。それを救済と言わずなんと言う?」


 「ただの死だ。以下でも以上でもない。死だ。苦しみも無ければ悲しみもない、負の感情が無いだろう」


 「だろ?」


 「喜びも感動も幸せも無いだろう。ありとあらゆる感情が排除され、ただ転生を待って魂はあの世を彷徨う。ただそれだけ⋯⋯それが救済になる訳が無い!」


 確かに、今の世の中には辛い事や苦しい事、山ほどあるよ!


 親友と一緒に下校できなかったり、遊びに行ったり、連絡先交換できてなかったり。


 組織で一緒に育った同僚が実践訓練で死んだり、仲良くしてくれた先輩達が仕事中に死んだり。


 父がお前らのようなクズの集団に騙されたり、母がただ依頼をこなして愛する父を殺したり。


 そんな母を混乱して、無意識に殺したわたし。


 世の中には目を背けたくなる程に辛く悲しい出来事がいっぱいあるよ。


 そりゃあわたしだって、過去に戻れたらとか考えたりする、逃げたいって何度も思う。


 でもさ、逃げても何も変わらない。


 「確かに、嫌な事から開放されるかもしれないけどさ、その逆に好きな事も終わってしまうんだよ。死は救いじゃない。嫌な事から開放されるけど、好きな事ができなくなるんだよ!」


 わたしは最近、組織で近い歳の友達ができた。


 もっとその人と遊びたい、楽しみたい。


 親友だって居る、もっと色んな事したい。


 今後の未来、できる事ややりたい事、全部ひっくるめてできなくなる。


 それが救いにはならない。


 「だからじゃ。我も主も言ってやろう。死は救済じゃない。死は死じゃ。ソナタのやっている悪行はただの人殺しじゃ!」


 「⋯⋯黙って聞いていればそんなくだらない。そんなのがどうしてわかる? あの世では幸せを満喫できるかもしれない。死が終わりなんて、確定事項は無い。だけど、嫌な事から開放されるのは確定なんだよ」


 だから間違ってないのか?


 結局、わたし達がなんて言うとも如月の考えが変わる事は無いんだろうな。


 ⋯⋯だけど、なんでかわかんないけど、如月の目はとても辛そうに見えるんだ。


 張り付いた笑みを顔に浮かべる如月、その本質は見え隠れしている。


 「死は救いなんだよ。それは絶対に間違ってないんだ! だから君も救ってあげるよ!」


 「ふざけんな! 我は死ぬべきかもしれんが、まだ役目が終わってないのじゃ! 死ぬか! それに誰も求めてない死を与える事はただのエゴ。身勝手な理想を押し付けてるだけじゃ。個人を尊重しろ」


 「大丈夫、救済は平等だから」


 「話が通じん、の!」


 互いに炎を飛ばして、攻撃する。


 魔法攻撃は互角と見るべきか。


 ⋯⋯いまさらだけど、死神ちゃんと互角って相当強いのでは?


 「なぬ? 我は本気じゃないぞ!」


 死神ちゃんが訂正の講義をあげる。


 なにやってんのよ。


 「ん? なんの宣言かな? 僕も全然、本気じゃないけど!」


 そう言いながら、最初とは明らかに違う身のこなしとスピードで死神ちゃんを攻撃している。


 「怪しいのじゃ」

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