第20話 元依頼人、盲目吸血鬼剣士アヤメが仲間になった/死は救いなんだよ

 師匠とであったのは幼い頃である。


 吸血鬼として生まれた⋯⋯生まれてしまった私を両親はすぐに殺そうとした。


 吸血鬼だから、何回も殺されても再生して蘇り、両親の元に戻った。


 その度に、二人は恐怖に染まり、ストレスが蓄積されて行った。


 包丁で刺されても、高い所から強く落とされても、魔法で消し炭にされても、私は蘇った。


 ストレスが蓄積され、限界を迎えた両親は自らその命を断った。


 私に謝りながら。


 両親を失い、その時はまだ吸血鬼だと自覚していないで、ただ永遠と両親が起きるのを待った。


 突然死んでいる二人が蘇る筈もなく、ただ時間だけが過ぎていき、私に限界が来た。


 食事を取らなければ当然飢える。


 人間なら飢えたら弱体化するだろう。


 体力や集中力が。


 だが、私はむしろ逆だった。


 本能が活性化して、より吸血鬼らしくなり、食欲が増した。


 意識が無くなり、気づいたら自分の周りには死体の山ができていた。


 その時の私の身体は年中くらいまで成長しており、脳も発達していた。


 色々と調べて、勉強して、空腹に耐え、時には死骸を喰らい、吸血鬼だと知った。


 絶望した。


 自分から死のうとした。


 両親が死んだ事に気づいた。


 生きる気力が無いのに、この身体は無慈悲にも再生する。


 魔力を完全に消費しても、本能が死ぬのを止めて、私の意識では抗えなかった。


 殺して欲しかった。


 誰かに、この苦痛を終わらせて欲しかった。


 そんな時にであったのは師匠だった。


 師匠は人よりも丈夫で賢く強い私を気に入り、人を守る剣を教えてくれた。


 家族の愛を知らなかった私は師匠との時間が好きだった。


 人を守る剣は時に人を殺さないといけなかった。


 守った命の数よりも殺す命の方が多かった気もする。


 だけど、誰かを守る事、それが私の生きがいであり生きる意味になっていた。


 師匠のお陰で、ただ死を願っていた日々から変わった。


 と、そんな話を依頼人から聞いた。


 「師匠との日々が好きだった。でも、もうこの世には居ない⋯⋯」


 「⋯⋯」


 成仏⋯⋯しなかったんだよなぁあのおじいさん。


 なんか別れの挨拶とかして良い感じだったのに、未練があって未だにこの世に居るんだよなぁ。


 言って良いモノか。


 こんな清々しい別れを終えたのに。


 「案内人さん。それに地黒さん」


 「なんだ?」


 「ん?」


 「私を二人の仲間にして欲しいんだ。もしも私が暴走したら、止められるのは案内人さんだ」


 「わたしは良いですよ」


 『ほんと、お主は人間以外じゃとちゃんと話せるの』


 「俺も構わん」


 わたしはフードを外して、自己紹介をした。


 「わたしは紫菜々伊悪善、仲間になるなら、わたしの目的に付き合ってもらいます」


 「目的?」


 「はい。⋯⋯死神教団を潰す」


 そしてなぜか、わたしの家で一緒に暮らす事になった。


 今後の食事はわたしの血と言う事になった。


 「それにしても、なかなかに信じ難いね」


 人間から吸血鬼が生まれた、そんな事実もかなり信じ難いと思うけどね。


 「死を司る神を降臨させ、死を支配する⋯⋯それは世界を支配する事に直結する、ね」


 「はい。奴らは人の命を軽く見てます。利用して使い捨ての道具のように⋯⋯何人も死んでる」


 犠牲者も多い。


 「わたしは殲滅する。あんな奴ら。わたしと同じような人を一人でも減らすために」


 「うん。わかった。私もそれは見逃せないからね。協力させて貰うよ」


 「ありがとうございます」


 それじゃ、ウチに居るうるさいおじいさんの処理をしますか。


 まずはその霊を掴んで、元依頼人、アヤメさんの長ドスに入れた。


 「ん? 頭の中に声が」


 それから師匠と会話して貰った。


 今後アヤメさんは死神探偵の助手として働いて貰う。


 「それで、その奴らについて何か手がかりはあるの?」


 「あんまり、無い」


 情報を聞き出そうとしたら皆自滅するので、本当に情報が手に入らない。


 末端だろうが、死んだらアイツらはさらに警戒するしね。


 全く、厄介だ。


 ◆◆◆


 「や、辞めてください。お願いしますお願いします」


 「この子は産まれたばかりなんです。どうか、どうかこの子だけでも!」


 「あひゃへへ」


 もーそんな目で見ないで欲しいな。


 僕は別に悪役じゃないし、悪い事をしている訳では無い。


 「ダメだよ。それだと残された子が可哀想でしょ? 皆で仲良く、死神ヤマに魂を捧げましょう。関係の深い君達家族の魂はきっと、ヤマ様は喜んでくださる」


 さて、絶望した顔は好きじゃないからサクッと終わらせよう。


 僕は大鎌を振るって、家族全員同時に首を刎ねて殺した。


 彼らはこの世と言う牢屋、苦痛から救われた。


 また僕は人を救った。


 「死は救い、救いは平等に与えられる」


 これでも僕を悪役、悪いヤツって言う人は居ないと思うなー。


 「クソ、イカれてやがる」


 「あぁ?」


 順番に救いを与えている。


 だから反発があるのはしかたないと思っているさ。


 でもさ、僕がイカれてるってさ意味が分からないんだけど?


 何こいつ、ウザァ。


 「僕がイカれてる? どこか? 丁寧に平等に救いを与えているこの僕が?」


 「そう言うとこ⋯⋯」


 「もう喋らなくて良いよ。価値がない」


 首をスパーン!


 「如月、まだやっていたのか?」


 「アバラギさん。僕は丁寧にやりたいんです。あと少しです」


 「そうか。早く終わらせろよ。死を求める人は多いんだからな」


 「はーい」


 僕が最後に残った人達を救おうとすると、亜空間から剣を取り出した。


 なかなかの魔法の使い手だな。


 「なんで抵抗するの?」


 「ふざけるな。いきなり誘拐しておいて、殺して、何が楽しい!」


 楽しい?


 ん〜楽しいってよりも嬉しいかな?


 「嬉しいんだよ。君達のような人を救える事が」


 「ふざけるな! 俺は救済を求めてない! 俺は死を望んでない! なぜそんなにも簡単に殺す!」


 なかなかやるけど、弱いなぁ。


 弱いくせに抵抗するなよ。


 「殺すなんて、あんまり言われたくないな。僕は親切心でやってるのにさ。死は救済なんだよ」


 「そんな訳あるか! 死は死だ! 殺しは悪だ! お前のやっている事は、単なる犯罪だ!」


 「お前⋯⋯バカだろ」


 「⋯⋯ッ!」


 僕が少し素早く鎌を動かした。


 やってしまった。


 綺麗に救ってあげるつもりだったのに、バラバラ死体にしちゃった。


 「うそ、リーダーが。Aランク冒険者なのよ?」


 「あーどっかの冒険者が調査しに来たのかな? まぁどうでも良いけどね。平等に救ってあげる」


 「いや、来ないで」


 「怖くないよ。痛みも感じない。幸福感しか感じない。もう君達は苦しまなくて良いんだ」


 「そ、そんなに言うなら、自分を救えば良いじゃない!」


 「そしたら誰が苦しむ人を救ってあげるんだ? それをできるのは強い人だけ、選ばれた人間だけ、僕のような天才だけ。だから僕はまだ、救われるべきじゃないんだ。善行を積んで良い死を遂げるためにもね」


 「いやああああ!」


 死は救いだ。


 死んだら悲しみも苦しみもない。


 なのに皆が否定して、皆が嫌がる。


 不思議だよね。


 「⋯⋯」


 僕は手下の破滅の死神教の使徒の心臓をゆっくりと抜き取る。


 「ありがとうございます」


 そいつは死んだ。


 「ほら、死は望まれてるんだよ」


 まぁでも、無類の死神教の奴らよりかは使えるから蘇生してしまうけどね。


 ごめんね、蘇生しちゃって。


 「そう言えば、昔に無類の死神教で神降ろしの儀式があったんだっけ? 自分の娘を使ったとか何とか、あれってどうなったんだっけ? ま、どうでも良いか」


 さて、アバラギさんに呼ばれているから早く行こうかな。


 「あ、救われた魂の抜け殻はゴミだから、適当に処理しておいてね」


 僕は今日も、沢山の人を地獄から救った。


 救いを与えた。


 「あぁ、皆あの世で喜んでるよね。あんなに嫌がっているけど、一度死んだら分かるよね。どれだけ嬉しいか」


 あぁ、そう考えると僕も嬉しいよ。


 僕は沢山の人を救っているんだ。

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