第27話

 そう思った時、先に口を開いたのは薫子かおるこさんだった。



「……わかった。これから10日間で、オペレーターとしての役割を叩き込む」


「……はい。ありがとうございます、薫子」


「依頼遂行中及び関連する話の際には『師匠』と呼べ。いいな。わかっているとは思うが、外ではこの話はするな。その時はアタシが手を下す事になる」


「はい。……了解です、師匠」


「……賛成できないんじゃなかったの」


「本人の意思だ、方針を変える。どうせアタシたちの側に置く限り、どうしても危険と無縁でいられるとは限らないだろう。それなら徹底的に囲って、徹底的に守るさ。その役目は、透だがな」


「……はいはい。本当に師匠は無茶振りが酷いよね」


「それについて来られる能力が透にあるのが悪い。……伶奈、よろしくな」



 頭を上げたエリツィナの顔には、やっぱり一見しては何も感情を指し示す手がかりがない様に思える。


けどその口角は僅かながらに歪んでいて、彼女が明確に、私のいる世界へと足を踏み入れた事を示していた。






「よしっ、じゃー遅くなったし、そろそろ寝るかー!」


「そうだね、じゃあ次はいつ来ればいいの?」


「伶奈は2日後、透は10日後に。今度は伶奈も含めてブリーフィングを行おう。……っておいおい、何を帰る支度してるんだ?」


「は? いや、話終わったし、もういいでしょ。明日は休みなんだから、帰ってゆっくりするよ」


「はー?! もうこんな時間だぞ! 夜遅い時間に、女子2人を歩かせるなんて出来ないな!」




 何故か薫子さんは手をわきわきとさせながら、私の方へとにじり寄ってくる。ひまりといい、薫子さんといい、どうしてこう私の周りの女どもは、セクハラ紛いの動きをするのだろうか。……エリツィナも、このタイプじゃないだろうな。



「いや、平気だから! あ、あんたもなんか言って! このままだと脱がされて、ベッドに連れ込まれるよ!」


「なるほど、それがですね……興味深いです」


「その話まだ言ってるの?!」




 思わずエリツィナにツッコミを入れていると、いつのまにか距離を詰めた薫子さんが私の背後を取っており、ワイシャツに手をかけた。シンプルに身の危険を感じる。夜道を歩くよりよっぽど危険なんじゃないか。




「ちょ、手を離せ! 師匠となんてする気、ないから!」


「いやー、流石にアタシから2人に手を出す事はしないが……まぁ、アタシの魅力に絆されて、そっちが手を出してくるなら構わないな!」


「キモ、キモいよ! あんた、手を貸して!」


「……脱がせば良いのですか?」


「なんでそっち側に回るの?!」



 そうして、私もろともエリツィナもすっぽんぽんにされて、師匠特注のキングサイズベッドで、朝まで3人で過ごす事になった。もちろん、なんてしてないから。

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