第25話




「標的とバイヤーの商談場所は、黄泉川区のこの廃工場」


「あれ、ここ、『不可触地帯』じゃないの?」


「傍ではあるが、掛かってはいない。まぁ不可触地帯のすぐそばだから、廃れた場所ではあるがな」


「通りで。いかにも悪いことしてますって場所だね」


「ドローンで確認したところ、工場自体はやはり機能を停止しているものの、2階の元従業員事務所には使えそうなソファやテーブルが備えられていて、そこで商談が行われるものと推察される」


「2階なら……狙撃用の『抜け道』は問題なさそうかな」


「ああ、主要狙撃地点は、同黄泉川区のこの元雑居ビル、5階。地点間の距離は1,045mだ。透なら問題なく抜けるだろ?」


「7mmレミゼラなら。プランBは?」


「雑居ビルから南西に300mのこの4階建マンションの屋上だ。ここも入居者が現在いない事は確認が取れているが……その分浮浪者が溜まっている。だからあくまで、プランAの遂行を優先する」




 浮浪者がいる事が依頼遂行の直接的な要因になるわけじゃない。ただ、もし狙撃に気づかれたら、もし私の顔を見られたら、彼らには


私はシリアルキラーじゃないから、余計な殺生はするべきじゃないし、そうしてやってきた結果がいま、私たちの生活に顕れている。




「それからここが重要な点だが……バイヤー側がPMCを雇い、周辺を警護させている」


「そのパターンか……規模は?」


「小隊規模だ。商談現場だけしか守らない様なカカシどもなら良いが、キレる奴が指揮官にいた場合、当然狙撃は警戒の内だろうな」


「そこのところはどうなの? 雇ってるPMCの情報は?」


「ロン&ハリー民間警備。私が部隊にいた時には聞かなかった名前だが、ゴロツキどもを雇い入れて『手広く』やっているらしい。だが、ゴロツキはゴロツキだな」


ぎょくが混じってなければ良いけど。もし遭遇した際は?」


「依頼遂行を優先して欲しいとの意向だ。排除し、定期連絡が行われるまでの間に狙撃を行う必要がある」


「めんどくさ……出会わなきゃいいね」




 そうして情報を一つ掬い上げては精査し、薫子かおるこさんと私は言葉を重ねて行く。こうする事で、実際の現場の空気すら脳裏に描き、シミュレートをする事で、今まで私が携わった依頼の成功率は90%を記録している。


100%ではないのは、私が狙撃したのであれば外した事はないが、それ以外の要因——商談が割れて内輪揉め、スコープの向こうで殺し合いが始まったとか——があるからだ。目の前で自分に関わりない銃撃戦が起きると、結構衝撃的だ。




「よし、こんな所だな」


「うん、了解。火器の整備、よろしくね」


「ああ……なぁ透」




 いつも通りの薫子さんの声色に、静かに、重たいものが混じる。




「この依頼、受けるか?」




 壁から目を離して見た、プロジェクターの反射光に照らされる薫子さんの表情は、いつも通りの何気ないものだ。




「うん、受けるよ……依頼の話が来た時点で、それ以外の選択肢、なくない?」


「……ま、そうだな。透の腕なら問題ないだろうし、気張れよ」


「別に気張らないけど」




 これが、いつもの私たちのやりとり。この後私は、使い慣れたレミゼラM900を手にして、標的の命を刈り取りに行く。


 けど、今日は私たち以外の3人目がいて、その存在がこのやりとりに割って入った。

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