第16話 力の差


「はい!私にやらせてください!」


俺の横から、紅髪の少女が声を上げる。

綺麗な長い髪は後ろでまとめられ、首からは煉瓦色のブレスレットが下げられている。


周りにいた受験生たち全員が、瑠璃色の瞳で試験官を見据えた凛々しい顔立ちのその少女を見て息を呑む。


「めちゃくちゃかわいいじゃねぇか…」


「あの子、どこの家の子だ?」


ヒソヒソと男たちが話す中、試験官であるシリウスが芯の通った声を上げる。


「お、威勢がいいな、嬢ちゃん。よし、受験番号と名前を言え」


「323番、ティナ・ガルシアです!」


(やっぱお前はすごいよ…ティナ)


「よーし、ちょっと待ってろよ」


そう言ってシリウスは手に持っていた名簿帳みたいなものを開く。


「323番…と、ん、よしやるか」


シリウスは左腕で名簿帳を抱えるように持ち、そして右手ではペンをクルクル回している。


「ん?あーこれか?言っただろ、両手は使わないって。まぁお前らぐらいが相手じゃ、持ってようが持ってなかろうが変わりゃしないだろうがな」


これにはさすがにティナもカチンときたらしい。

ティナからメラメラと怒りのオーラが沸き立っている。


(うーわ完全にブチギレてるよ…)


「…いきます!」


ティナが真っ直ぐシリウスのもとに突っ込み、顔面右ストレートを放つ。

わずかに体を反らしてそれをかわしたシリウスに左後ろ回し蹴り。

が、それもシリウスは足で受け止め、にたっと笑う。


「へーぇ、なかなか」


ペンをクルクル回しながらヘラヘラしているシリウス。


「……」


相当頭にきたのか、ティナはそのまま暇なく猛攻を続ける。

が、その全ての攻撃を受け、流し、かわしながら、シリウスはペンでしっかり名簿帳に何かを書き込んでいる。


「速さは…3、パワーは4ってとこか?」


そしてそのまま1分ほど経った。


シリウスが全部書き終わったのか、ペンを挟んだまま名簿帳を閉じる。

その時の一瞬の隙を狙ってティナが後ろの死角から手刀を首元に叩き込もうとする。


(入る…)


その瞬間、気づくとティナは後ろで腕を極められ、動けなくなっていた。


「!?」


何が起こったのか誰にも分からなかったが、おそらくシリウスが人間離れしたとんでもない動きでティナの後ろに回り込み、腕を極めたのだろうということは想像ができた。


(これが『疾風』…)


「嬢ちゃん、なかなかやるじゃねぇか。一撃入れることはできなかったが、筋は良かったぞ。とりあえず足のバネをもう少し鍛えろ。だいぶ変わるだろう」


そう言ってシリウスはティナの腕を離す。


「魔法試験会場は校舎の地下だ。行けば分かる。がんばってこい」


「はい、参りました。ありがとうございました。」


相当悔しいのだろう、少し俺の方を見て、ティナは唇を噛み締めながら、校舎の方へと歩いていく。


「よし、次は誰だ?今のの嬢ちゃんくらいガッツがある奴はいねぇのか?」

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