ぼっち俺、美少女の眷属始めました

川野マグロ(マグローK)

第1話 眷属として召喚された

 開錠成功。


 屋上の鍵を開けるのも今となっては慣れたものだ。

 初めの頃は背後が気になって開けられない日もあったが、今となっては目をつぶっていても開けられる。


「さて……」


 一応、見ている人がいないかは確認しておく。

 ピッキングによる屋上への侵入は許可されていないからな。


「大丈夫そうだな」


 確認を終え、俺は屋上へつながるドアを開けた。


 昼休みを屋上で過ごす。俺の至福の時間。俺の至福の場所。


「我が呼び声に」


 声が聞こえ俺は慌ててドアを閉めた。


 屋上には先客がいた。


「ど、どうしてだ!?」


 見られたか? 気づかれたか?


 いや、その心配はないだろう。何やら真剣に叫んでいた。おそらくこちらには気づいていない。


 そして何より、見られていたとしても俺と同罪。


 屋上へ入るにはカギが必要だ。

 生徒への貸出は放課後の部活でしか許可されていない以上、今の時間に入っているということはそういうことだ。


 気づいていても俺を突き出すことはできない。


「だが、関わるべきじゃないな」


 君子危には近寄らず、だ。

 しかし、このままでは弁当が食えない。


「仕方ない。弁当は他の場所で食べるか」

「その必要はないぞ。我が眷属よ!」

「いつの間に!?」


 気づくと屋上で叫んでいた女子生徒は俺の腕を掴んでいた。


「さあ、此度の召喚が成功したことを共に祝おうではないか!」

「ちょ、やめ。離せ! って、力強いな!」


 俺程度では抵抗できず、そのまま屋上へと引きずり込まれてしまった。





「深淵なる邪悪の使徒よ」


 俺は今、謎の魔法陣のど真ん中に座らされている。


「今こそ我が右腕として、その力を使う時」


 目の前には、高く澄んだ綺麗な声で謎の言葉を続ける美少女が俺を見下ろしてきている。

 幼い印象を受ける低身長。そして、長い黒髪をツインテールにしている姿は、それだけ見れば小学生と見間違えるほど。

 だが、身長は小さいながらも大きな胸がその間違いを防いでいる。

 文武両道、才色兼備で知られる、学校で知らない者はいないほどの天才。

 阿久間呼幸あくまこゆき


「契りを結びし我らは、いつ、いかなる時も一心同体」


 よくわからないまま話は勝手に進んでいるようだ。


 ここまでで改めてよーくわかったが、阿久間は見た目もよく、運動神経もいい。おまけに勉強もできる。にも関わらず煙たがられているのは、ひとえにこの性格のせいだ。

 他のよさをぶち壊すほどの壊滅的な中二病。これが原因だ。


「さあ、ここに名を示せ。保智孝介ぼちこうすけ

「え、俺の名前知ってるのか?」

「当たり前だろう。ボクが自分の眷属の名前を間違うはずがないだろう? そもそも、ボクが同学年の生徒の名前を覚えていないとでも? ボクは一度見たものは忘れないんだ」

「凄まじい記憶力だな。俺なんて同じクラスのやつでも怪しいぞ」

「まあ、ボクだからね」


 謙遜はしないらしい。

 と言っても、俺は阿久間と一度も同じクラスになっていないというのに、覚えられるものだろうか。

 改めて出来の違いを認識させられる。

 それだけに、この性格の残念さが引き立つのだが……。


「さあ、これで契約は終了した」

「お、終わったか。じゃあ、弁当食べていいか?」

「もちろんだとも」


 先ほどまでは動くと全力で止められたのでやっと解放され自由になった。


 俺は持ってきていた弁当箱を開け、残された時間でどう食べ切ろうかと思案しようとひとまずミニトマトを口に運ぶ……。


「……」


 ものすごく視線を感じる。

 阿久間は純日本人のはずなので、カラコンによる赤い瞳から真っ直ぐ視線が注がれている。


「グゥーグギュルルルー」


 おまけに腹の音まで聞こえてくる。

 そのこと聞こえることを気にする様子はないが、視線はじっと俺の弁当箱に注がれている。


 俺の弁当の中身はというと、ブロッコリーや玉子焼きにご飯という至ってありきたりなものなのだが……。

 そういえば阿久間の弁当が見当たらないな。


「ないのか? 昼」

「まあね。今日は食べずに終わるはずだったからさ。でも、召喚に成功したから、想像以上に早く終わっちゃったんだよ」


 相変わらず何を言ってるのかわからない。

 わからないが……


「その、食べるか?」

「い、いや。大丈夫だ。眷属のご飯を主人であるボクがもらうわけにはいかないよ」

「グギュルルルルー」


 腹はそうは言ってないけどな。

 強情なやつだ。


「眷属は主人に尽くすものなんじゃないのか? ほら、眷属から主人様への捧げ物ですよ」

「ふむ……確かにそうだ。それじゃあもらうことにするよ」


 阿久間は俺の差し出した弁当を一瞬で食べきってしまった。


 先ほどまで遠慮していたのはなんだったんだ。まさか全部食われるとは。

 俺、ミニトマトしか食べられなかったんだが……。


「うむ。美味であった。褒めてつかわす」

「お、おう」


 返された弁当箱には綺麗になっており、何一つ残っていなかった。

 だが、自分の作った弁当を美味しそうに食べてくれるのは少し嬉しい。


 じゃないじゃない。


「そうだな。それじゃあ保智。キミを我が眷属として弁当当番に命ずる」

「は?」

「それではこれからよろしくな。保智よ」

「俺じゃなくてクラスの女子とかじゃダメなのか?」

「ダメだな。残念だが、彼女たちでは我々の崇高な理念は理解できない」


 俺も理解してないけどな。


「ということでよろしくな保智よ」

「いや、俺は弁当当番じゃないからな!」

「フハハハハ!」

「聞け!」

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