落ち込むメエメエさん~第338話裏話~

 ある日離れの保管倉庫に行くと、メエメエさんとラビラビさんがもめていた。

 僕とバートンはキョトンとしてしまったよ。

 精霊さんたちも小首をかしげているね。

 椅子に腰かけたアル様がニヤニヤと笑っていた。

 んんん?


「どうしたの? ケンカをしちゃダメだよ?」

 僕の声に黒羊と白兎が同時に振り返った。


 するとラビラビさんが飛び上がって大きな声で叫んだ。

「ハク様! 見てください!! メエメエさんが変なものを作って売ろうとしているのです! 私は断固反対です!!」

 鬼気迫るラビラビさんの形相に一瞬たじろいだけれど、すぐに言葉の意味を理解した僕。

「『絶対にのぞいてはいけません』って言ってた、アレかな?」

「ソレです――!!」

 ラビラビさんの鼻息が荒いね。

 肝心のメエメエさんを見れば、しょんぼりと項垂れていた。

 そんなメエメエさんは珍しいね?


「まぁ、落ち着いてよ、ラビラビさん。……それで、メエメエさんは何を作ったの?」

 怖いもの見たさ半分、ラビラビさんを小脇に抱えてメエメエさんに近づいた。

 メエメエさんはしょんぼりしたまま動かない。

 見れば床に何か落ちているので、拾って広げてみた。


 それはナガレさんが冬に着ているドテラだった。

 背中には猛獣型クロちゃんのドアップが刺しゅうされていた。

「…………」

 僕もバートンも無言でドテラとメエメエさんを二度見した。


「クロちゃんがあるということは、もちろんシロちゃんもあるんだよね?」

 恐る恐る聞くと、メエメエさんは俯いたままうなずいた。

 とりあえず、見せてもらった。

 特に語ることはないね。

 背後でアル様が大笑いしていたよ……。


 どうやら竜虎はダメだと言った僕の言葉から、クロヒョウとユキヒョウにしたらしい。

 たいして変わらないと思うんだけど。


 僕はため息を吐いてメエメエさんに提案してみた。

「ドテラは温かいよね。だけどこの羽織物が村の人たちに受け入れられるかはわからないよね?」

 メエメエさんはいじけたようすで小さくうなずいた。

 それはわかっているのね?


「じゃあさ、まずは試しに無地とか縞模様のシンプルなドテラを、無人販売所に置いてリサーチしてみたら? その上で人気が出たら、シンプルなものからカミーユ村で販売してみたらどうかな?」

「ハク様は甘過ぎます! ドテラには綿を使います! 綿花はこの世界では貴重品です!!」

 ラビラビさんがプンスコしているのはソコなの?!

 「えぇ? ラビラビさんが怒っているのは、この模様じゃないの?!」

 ラビラビさんは大きくうなずいていた!!

「違います!!」


 大きな認識のズレがあったッ!!!


 アル様がお腹を抱えて爆笑していた。



「もう、仕方がないねぇ……」

 僕は馬鹿らしくなってしまったよ。

 近くの椅子に座って、おもむろに植物図鑑を取り出す。

 コットンフラワーと頭の中で唱えると、勝手にページがめくれてゆく。

 そのページに手をかざし、一株のコットンフラワーの苗を取り出した。

 コットンフラワーは元々熱帯の多年草なんだよね。

 寒さに弱く暑さに強い、一年草扱いで植えればいいね。

 この辺に自生する植物ではないから、耐寒性を持たせて、結実性をよくしよう。

 ついでに本物と区別するように、ピンクの花が咲くようにしてみようかな?

 そうして植物創造魔法を使って、品種改良を施してみる。

 出来上がった苗をメエメエさんに手渡すと、メッチャ瞳を輝かせていた。


「耐寒性を持たせたから植物園で育ててみて。大森林の中で綿草を見つけたことにすればいいよ。来年は村の外に適当に種をまいて自生植物にしちゃってよ」

「かしこまりました!」

 メエメエさんは大喜びでポンと消えた。

「ハク様は甘いです!」

 ラビラビさんは呆れていたけれどね。


「ねぇ、ラビラビさん。とりあえず、模様があるものは全面却下で」

「了解です!!」

 僕とラビラビさんがガッチリと握手を交わした。

 おかしなものが流行する前に、阻止しなくっちゃね!



 その後、無料無人配布所にトルソーが設置され、そこにシンプル縦縞のドテラが展示された。

 最初は村人たちも首をかしげていたけれど、寒くなってくるとうっかり試着する者が現れ、徐々に購入する者が出てきた。

 とりあえず、カラーバリエーションだけに留めて、ようすを見ているところだ。


「赤とピンクの縞に、和柄のウメ文様はどうでしょう! 袖口や裾にちょこっとです! ちょっとだけヨ!!」

 メエメエさんがそんなことを言い出して、さっそく試作品を作っていた。


「おや、これはまたシンプルだが斬新なデザインだねぇ!」

 アル様がほめるものだから、メエメエさんが調子に乗った。


 和柄のキクとサクラは、意外と悪くないかも。

 そのうち格子・矢絣・菱・一松などを作り出し、なぜか人気に火がついた。


 ルーク村の冬の部屋着として、大人気になっていったのだ。


 ルーク村人って、妙に派手で新しい物好きだよね?

 謎の小江戸文化が花咲きそうな今日このごろだった。



***


 綿花の北限は岩手県のようです。それより北だとハウス栽培になるようです。

 海外から安い綿が入ってくるので、日本での生産数は少ないみたいです。

 ちなみに化学肥料を使わないものをオーガニックコットンと呼ぶようです。


 ドテラを漢字で書くと褞袍なので、読めませんね(笑)

 本作では腰切のものを想定してます。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る