やばい家の娘と俺

第8話 法律の勉強しとけばよかった

「お前ええぇぇええぇぇぇ!なんでもっと早く言わないんだよ!なんで善田のフリなんかしたんだこのボケェェェェェ!」


「だってこうした方が仲良くなれると思ったんだから仕方無いだろ!?」


お互い話し合ってみた結果、二人は今の事態の真相を知った。

そして今それについて揉めている。主に偽善田が全一に飛びかかり、全一がそれを抑えようとしている形である。


「馬鹿だろお前!なんだよごっこ遊びって、頭湧いてんだろ!」


「その頭が湧いた馬鹿の演技に騙されたのはお前だろうが!それに俺なら分かるだろ!?

可愛い子と少しでも話せた日はテンションが舞い上がるあの感覚、あれの最上位版の感覚になってハイテンションだったんだよ!だからノッて善田の演技しちゃったんだ!」


「はぁぁぁ!?

じゃあさっきのお茶取りに行く時の笑顔は何だよ!絶対に俺が出来る笑顔じゃなかったから信じるしかなかっただろ!?」


「善田に成りきった上で心がウキウキしてたからなんか出来たんだよ」


「それだけ善田に成りきれんならもうお前がこの善田の身体の中に入れよ!てかどうすんだよこの状況!絶対に普通の入れ替わりの方がまだ良かっただろ!」


善田は今の事態に絶望し、頭を抱えて蹲る。そんな偽善田の姿を見て、全一は頭の中を整理する。

(話は分かった。もうこれは演技だとかじゃなくて完全に俺だし、そこはもう疑ってない。

問題は…目の前にいる善田の正体が自分だと分かってるのにコイツへの見る目がさっきからあまり変わらない事だ。善田のボディの前だと中身が自分であっても惚れちゃうのか…もう面食いの事を見下せんな)


それと同時に、蹲っている偽善田も思考していた。

(せっかく善田が似た過去を持ってて気が合って好きになりかけたのに…コイツ100%純正の俺じゃねぇかよ!

てかマジでどうすんだこれ、ただの入れ替わりならお互いの情報を交換して姿が元に戻るまで演じ合うって事が出来たのに、これじゃあ俺は善田について何も知れないじゃないか。詰んでないかこれ!?)


焦る偽善田、自分の恋心に疑問を持つ全一。今は間違いなく全一の方が心に余裕があった。


「まぁ、とりあえず落ち着け。今日は泊まるんだし夜通し作戦会議でもするぞ」


「気持ち悪ぃボディタッチすんな。俺はお前だぞ」


全一が背中を摩ってくるので、偽善田は直ぐにそれを跳ね除けて立ち上がる。


「お前状況分かってんのか?俺はこれからこの善田の身体で過ごすんだぞ?

住所も、家族構成も、趣味も、何一つ知らない女のフリをして過ごすんだぞ?

これからどうすりゃ良いんだよ」


「…取り敢えずスマホから誰かに連絡して色々聞きだす?」


「どうやってだよ。まさか「私の住所を教えて」と誰かにメッセージでも打てって言うのか。

冗談じゃねぇ、善田がそんな狂ったメッセージ送ったら絶対に怪しまれるわ。

…あ、てかさ、俺教室で「善田は親に今日は友達の家に泊るって連絡をしておいてくれ。流石に連絡無しで泊るのは両親が心配するだろ」って言ってお前に善田のスマホ渡したけど、お前それはどうした」


「スマホは特に何も弄ってないぞ。写真と連絡先と検索履歴を調べただけだ」


「うわぁ、結構がっつりやってんな…流石の俺もそれは……」


偽善田はここに来る前に自分の下着姿やらをスマホで撮影したのを思い出し、途中で言葉を詰まらせる。

そして一拍後、偽善田はコホンと咳払いをする。


「ま、まぁ浮かれてたのなら仕方ない。俺もお前だからそれは分かるし、そこは責めないでやる」


だが相手は自分自身。今の不自然な間から何かを感じとった全一は


「…おい、お前も俺がお前だって事忘れてないだろうな?

俺だったら多分その自分のスマホに善田の下着やらキス顔写真を保存すると思うのだが…ちょっと見せろ」


と言いスマホを取り上げようとする。全て見破られた偽善田は焦りスマホを両手で抱え、スマホを守る。


「お、おい!やめろ!確かに今お前が言ったのは全部正解だ!

キス顔アへ顔下着、それにセクシーポーズや全裸の写真やら20枚ぐらい撮った!それは正解だ…で、でも善田の為にもお前は見るべきじゃない、てかなんか恥ずかしいから見ないでくれ!」


「おい!俺の想定の5倍ぐらい撮ってるじゃねぇか!

なんだよ、お前も俺と一緒に浮かれてたんだから一概に俺を悪くは言えないな!ほら、証拠品を見せてみろ!今の自白よりも撮ってるかもしれないし証拠を見せろ!」


全一はそのスマホの中に善田のあれらの写真があると聞き、本気でスマホを取ろうとし始めた。

その目は紛れもなくオスの目で、偽善田は自分相手に恐怖を抱く。


「その目はダメだ!イってる奴の目だ!

分かった、もうさっきみったいに演技ごっこにうつつを抜かしてたお前に上から目線で怒らないからその手を放せ!

流石に男の身体に善田の身体の俺が力勝負で勝つなんて…勝つなんて……あれ」


二人は本気でスマホの奪い合いをしていたが、本気で息を切らしながら引っ張る全一に対し、偽善田はそこまで全力は出していない。

なのに力は拮抗、いや、僅かに偽善田の方が優勢だった。


ここで二人はある事に気が付く。


「「……そっか、俺って善田よりも力が無かったんだな」」


二人は仲良く心に傷を負った。





一度心を落ち着かせ、互いに机越しに向かい合って正座をして話す。

ちなみにさっき偽善田が撮ったエロエロな写真は偽善田がしっかり全て削除しておいたという。


「さて…先ずこの善田の身体で今後どうするかって問題だな。今lineを見て見たけど、一応親と思われるアカウントはあった」


「おお。じゃあそのアカウントのこれまでの会話から多少なりとも情報を探せるんじゃないか?」


相変わらずスマホのパスワードが分からないので、善田のスマホを開く手段は指紋認証と顔認証のみ。なので善田のスマホは偽善田が持ち、全一のスマホは全一が持っている。


「ただ一つ問題がある。それは親と思われる『善田 恵子』から現在何らかのメッセージが来てて、過去のメッセージを覗くにはそれに既読を付けねばならんって事だ。

てか…他にも沢山の人からメッセージが届いてるんだよな。だから他の返信からも情報を集める為には、それらに返信しないとならん。

多分善田は既読スルーなんてしない子だし」


「なるほどな。でも返信なんて直ぐに適当に返せないか?」


「この『善田 恵子』という善田の母と思わしき者からのメッセージ、3件あるのだが、最後に送られてきたのがスタンプだから、ここから見えるのは〔スタンプを送信されました〕って通知だけなんだ。

ヘッダーに来る通知はさっきのスマホの奪い合いで消えちゃったし…今の俺らは俺らはこれに既読を付けねば送られてきたメッセージを確認できない。

つまりメッセージを未読無視してじっくり返信を考えるなんて事が出来ないってわけだ」


「く…即興で返さねばならんって事か」


一体どんなメッセージが送られてきているのだろうが。もしも軽い内容のものなら簡単だろう。だがもしも「○○の誕生日だから今日は早く帰って来てね」だとかいうものなら返答は限られてしまう。

そして直ぐ帰らないといけない様な返答をする事になったら、偽善田は本当に大した情報も持たずに家に帰らねばならない。だがそこで下手な事をしたら正体がバレたりするし、もしもそれで帰らねば今後善田の母とのメッセージが出来ず困る事になるかもしれない。

二人はそれを避けたかった、善田の身内との連絡が出来なくなってしまえば今後どんな弊害があるか分からないから。


「でもここで悩んでいても仕方ない。ここは俺に任せろ。

2時間ぐらい心の底まで善田に成りきった俺だ、どうにかなるだろう」


「それ妄想の善田な?

返答によっては怪しまれたり、「貴様何者だ、優雅じゃないな」とか別人を疑われるかもしれないから慎重に行くぞ」


「おう…って、ちょっと待ってくれ」


覚悟を決めて『善田 恵子』というアカウントとのトークを開こうとした所で、全一がそれを止めた。


「なぁ、別に入れ替わりを隠す必要なんてなくね?全部打ち明けるっていうのはどうだ?」


「は?打ち明けたってこんな話を信じてくれるわけないだろ。からかわれるのがオチだ」


「いや、でも善田の身体でそれを言えば信じてもらえそうな気がするのだが。

善田の親と直接合って相談すればいいだろ、多分話していくうちに本当に善田の中に俺が乗り移ってるって分かってくれるだろ」


「それは……そうだな。確かに自分らでなんとかしようとしか考えられなかったから、そこは盲点だった。

…でもさ、怒られないかな」


「ん?怒られるって誰にだよ」


「そりゃあ善田の親にだよ。ただの身体入れ替わりなら良かったが、今ここに善田の意識は無いだろ?

そんでもしも元に戻る方法が見つからなかったら、それって非行全一が善田優雅を殺ろした事とかにならない?」


「……もしなるんだったら…俺、捕まるの?」


「さぁ…」


「訴えられたら勝てるかな?」


「さぁ…」


「お前があれは事故だったって言えばどうにかなるんじゃないか?」


「さぁ…どっちも非行全一だしなぁ…」


訴えられるだとか急に現実見がある話になり、二人はますますこの状況に焦りを感じ始めた。特に全一は自分が捕まるんじゃないかと思うと呼吸も乱れる程度に動揺を始めた。

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