第53話

学園が終わって帰ってきたのだが奏介はとあることに悩んでいた。


奏介がこの前買った指輪は枕の裏に隠してある状態でしばらく放置したままだったのだが、昨日真冬が掃除に来た時にバレかけたので場所を移動させていた。


(危なかった……普通にバレたら色々まずいからな)


そんな時に思いついた隠し場所……とは言えないが、指輪は箱に入っているのであえて棚の上とかに置いておくことにした。


(逆にバレなさそうな気がする)


まぁバレた時の事はバレた時に考えるとして、珍しく今日は2人ともが出かけている。


片方が出かけているというのは多々あったが二人共が出かけているというのは久しぶりだった。


にしても2人ともがいないとなると話すことも出来ないし、これといってやることも無いので暇でしかない。


「マジで何しようかな」


1人しか居ない家でそう呟く。


「この指輪を渡す【いつか】は来るのかな? 来たらいいな……」


俺は真夏のことが好きだ、幸せにしてあげたいし幸せになってほしい。

君の笑顔をずっと見ていたい、わがままと言われるかもしれないけど、望むならこれからもずっと一緒にいたい。


「こんなことを思っていても真夏に伝えられないんだから意味ないな、いつか……ちゃんと伝えられるようにならないと」


1人しか居ないからこそ自分の思いを口にすることが出来てる、真夏が目の前にいたら奏介はこんなことを言えないだろう。


ただ、真夏とこれからも過ごしていくためにはいつかは言わないといけない日が来るのかもしれない。


(やっぱり【いつか】のことを考えちゃうか……そりゃそうだ誰だって自分の未来がどうなってるか気になるものだからな)


俺は君を想うだけ、ちゃんとわかっている。


奏介は真夏の部屋の扉の前でそんなことを思う……2人はまだ帰ってこない


そして奏介はしばらくリビングで寝てしまって起きた頃には既に2人がキッチンでご飯を作っていた。


「あ、起きました?」


「起きたぁ……いつの間に帰ってたのぉ?」


奏介は起きたてでふにゃふにゃの状態で真冬の問いに対して返答したのだがその隣にいた真夏が「可愛い……」と呟いた。


「んぁ、顔洗ってくる」


視界がまだはっきりしないので洗面所で顔を洗ってリビングに戻った。


「こんな時間に昼寝して今日の夜にちゃんと寝れるの?」


「多分寝れるから大丈夫、最悪寝れなくてもその時間を色々と有効に使うから」


「勉強するのも程々にね〜テストで高順位を取らないといけないのは分かってるけど毎回1位になる必要は無いんじゃない?」


今までのテストで真夏は奏介を上回ったことは無いし、なんなら最後のテストでは雨恵に負けていた。


1回ぐらいは勝ちたいのだろうけど自分がどれだけ勉強しても勝てないからいっそ奏介の勉強時間を減らそうとしているのだろう。


奏介も高一内容は中学の時に大体やっていたので多少勉強時間が少なくても問題なかったが高二の内容となると勉強しないと1位を取ることはできないだろう。


「いやぁ……真夏が頭いいのは分かるけどさ、彼女より点数が低いっていうのがなんか嫌なんだよね、かっこ悪いというか」


(そんなところ気にしてるんだ……可愛いなぁ奏介くんは)


ご飯を食べながらそんな会話を真夏としている奏介だが、会話をしている時も考えているのは【いつか】のことだった。


ご飯を3人で食べている今が未来まで続くとは限らないし、もしかしたら明日離れることになるかもしれない。


「なんか暗い顔をしてるけどどうしたの?」


「……今、一緒にご飯を食べていて真夏と付き合えてるけど、その日々が来年も、再来年も続くのかなぁって」


そもそも今の生活は普通のことでは無いのだ。


「続くよ、いや私が続かせる。もしお父さんやお母さんが反対しても私は奏介くんと付き合うことを諦めないから」


「反対される気はしないけどね、俺の父さんたちは付き合うことを認めてくれてるし、というか母さんはもう二人のことを娘と思っている節があるから」


ちょっと前に二人を連れて家に帰った時に俺が真夏と付き合ったからなのか二人のことを「未来の娘」とか言っていた。


「まぁ認められているということなので問題ないでしょう、多分こっちの親も認めるでしょう」


「お父さん達はずっと私たちに早く大切な人を見つけてってずっと言ってたからねぇ」


こんな可愛い娘なのだから溺愛してて【お前なんかに娘を渡すか】なんて言ってそうと勝手に想像していたがそんなことは無いらしい。


それなら俺としては嬉しいし親から付き合うことを認めてもらえるのなら認めてもらった方がいい。


改めて面と向かって認めてもらうのはだいぶ先になるが、それまでにだいぶ関係を深めておきたいところだ。


「まぁ奏介くんは頭もいいし、見た目もかっこよくてたまに可愛いから渋るところはないんじゃない?」


「褒めてくれるのは嬉しいけど、可愛いは余計では? 男に可愛さなんてないだろ」


「起きたての奏介くんは可愛かったよ?」


改めてそう言われるとなんだか少し恥ずかしいので仕返しとして真夏にむっちゃ可愛いと言っておいた。


真夏の顔が赤くなっているが、仕返しということなので追い打ちで頭を撫でて、自分の部屋に戻った。


(やっぱりこの生活じゃないと俺はもうダメな体になってるんだな)


奏介はとっくに双子に依存していたのだ。

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