第24話 開かずの部屋~貸元のビルダム

リブロは顎を触りながら言った。

「お前らが引っ掛かったのは迷牛頭まいごずの3人組だな」


「それだ!なんかそんな組名だった!」


「あいつらは初心者見つけて食いモンにする。あいつらロクなヤツらじゃねえ!絶対関わるな」


「もう関わっちまったんだよ」


チャラガが元・生贄候補たちに話しかけた。

「みんなも迷牛頭に騙されたの~?」


なんとここにいる全員が迷牛頭の被害者だった。

ある者はビギナー冒険者としてカモにされ、ある者は観光ガイド中に放置されたようだった。


僕は顳顬こめかみに青筋を立て、無意識に呟いた。

「コロスか…ビキビキ」



*     *     *



ツンフトに無事戻ってきた。


クジャクの睫毛を持つ、ケバケバしい受付嬢がまたも不味そうな何かをくちゃくちゃと食っていた。

「おかえり、リブロ」


「ただいま、キャイアンディ」


受付嬢の名前はキャイアンディっていうらしい。


「はぁぁ~~~ッ?!ちょっ!リブロ!こっち!」

キャイアンディがリブロを引っぱっていった。

「ねぇ!あのチビども2人とどういう関係?!仲間だったん??!」


「あ?クエストの途中で会って、そっから仲間になっただけだけど」


「ちょっと~!なんで助けちゃったのよ!運営ツンフトに怒られるのアッシや迷牛頭なんだけど!」


「助けられたのは俺だよ。っていうかよ~、お前さ、新人から金品巻き上げる悪習まだやるつもりかよ??しかもそいつらバケモンに喰われるの知ってんだろ?良心は痛まねェのか?」


「仕方ないだろ~!運営がギャングスタなんだからよ!!ヤるかヤられっかだろ!」


リブロは呆れて溜め息をついた。

「ま~ともかく。の預けた金品、返却してやってくれ」


「こいつ…………“ら”?ぎえええええええええぇぇぇ」

キャイアンディが動悸を起こしかけている。

「リ、リブロ…他の生贄候補まで戻ってきてる…なんで………」


「ん?ああ。森の主アラクネ?ブッ倒したよ」


「こ…これからの儲けが………」

キャイアンディは気絶した。



*     *     *



ほどなくして、僕とチャラガ、リブロは“開かずの部屋”に呼ばれた。


そこには、身体が横にどデカい中年の男がソファにどっかりと座り、葉巻をくわえていた。

そして欺瞞ぎまんに満ちたようなベットリとした笑顔を作り、僕らに座るように促した。


「よぉ。超人冒険者さん達。ジェアの恵み、どうだ?」


僕はリブロに尋ねた。

「ジェアの恵みってなんだい?」


「吸うと気持ちよくなる神の恵みだ。最近は法律で禁止されている地域が多いから大体は裏社会の人間が吸うんだ」


「ふぅん吸ってみようかな」


「話聞いてたか?一応現地域ここでも吸っちゃいけねえんだ」


「ぶははははは!」

中年男が豪快に笑った。

「まぁええや。座れや」


僕ら3人は対面でソファに座った。


中年男が切り出した。

「俺は貸元かしもとのビルダム。このツンフトを切り盛りしてんだ。よろしくな」

斜め上に煙をフーッと吐き出し、彼は続けた。

「よぉ、おめえら、森の主やっつけちまったんだってな。すげえよ。あの化け物は十数年前に出没して以来、森に鎮座し続けて、人を喰らい続けてきたんだ………俺らはアイツを金儲けに利用してたんだが~まぁ残念お前たちがブッ倒しちまったってわけだ。」


—————なんだ?このオッサン、僕たちをどうするつもりだ?

僕は頭の中で踏韻とういんに備えた。

いざとなったら「」と「」で韻を踏んで腹の中に時限爆弾を仕込んでやる。


ビルダムは咳払いして話を続けた。

「俺らの商売を邪魔する奴はフツーなら切り刻んでぶっ潰す…が、お前らはどうやら凄腕のようだ。見込みがある。ウチのツンフトの看板にならないか?」


への字口をして聞いていたチャラガがふいに答えた。

「ええ~、やだァ~~~」


「ちょっ、チャラガ」


「だって~アタシらのこと殺そうとしてたんでしょ~?そんな奴らの仲間なんてなりたくないワイ!」


—————ワイ!可愛いな


ここで空気を呼んだのか、リブロが口をはさんで遮った。


「ビルダムさん。まぁなんだ、俺もアンタには世話になってる。なんてったって俺らに対する人種差別は根強くて、普通のギルドには登録できねぇ。そんな俺を登録させてくれるのは今ンところここしかねぇ。」


リブロは肩をすくめた。


「でも看板ってのはちょっとまだ待ってくれ。俺らもいつまでここに留まれるかもわからねぇしな。もうちょい試用期間をくれよ。アンタにとってもその方が有利なんじゃないか?みんな看板冒険者にはそれなりの報酬を払ってるからな」


ビルダムはうーむ…としばらうなって、咳払いして言った。

「そういうことならわかった。まぁ考えておいてくれ。待遇は良くする。それと…今回の迷牛頭あいつらのことはまぁ水に流そうや、こっちも商売なんでね」

彼は下品に笑った。


僕らは開かずの間こと秘密の応接室を後にした。


リブロが僕たちに言った。

「アイツは裏稼業やりすぎて頭イカれてるからあまり深く関わらない方がいいぜ。あいつはロクなヤツらじゃねえ!ま~俺もココを利用しないと生活できないから、生かさず殺さずっていうのか?上手くやっていくしかねぇのさ」


「そうか…リブロも大変だね」


「まっ、気を取り直して次のクエストでも探そうぜ」


「あっこれ!」


チャラガが張り紙を指差した。

デジャビュか?これついこの間のヤバい流れだった気が。


『急募!かんたん作業!


対象:流行りの仕事を主とした成り金富豪


実施場所:チルドコリンの町


募集人数:3名


詳細:いま話題の富豪を対象とした、正真正銘超かんたん作業!分け前は半分なので、非常に効率よく稼げます!その上、戦闘などもおそらく発生しない本当にかんたんな作業となります。


こんなあなたにおすすめ:気配を消すことが得意な方!


優遇スキル:韜晦とうかい



リブロがまじまじと募集要項を見て言った。

「おお~いいんじゃねぇか?やっちまおう」


「だよね!どう?アストラ」


「そうだな~。もうしばらく戦闘はコリゴリだ」


僕ら3人はこのクエストを受注することにした。

そう、マトモじゃない案件であることも知らずに………。

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