第21話 迷いの森~可愛い子にはラップを教えよ

翌朝目覚めると、僕の胸はよだれの海になっていた。


「アストラ汗かきすぎ!きゃはは!!ねぇ、との一夜、緊張した?緊張した??」


—————貴様の唾液なんだよ!!!!!!!!!

僕は大海原を帯びた服を絞った。人間ってどこにこんな水分を蓄えているんだ…?




さて、出発である。


気さくな戦士3人組、迷牛頭まいごずとともに、迷いの森へと出発する。


3人の中でもとびきりイカツい、顔に刺青を入れた男が豪快に笑いながら言った。

「おっし、さっさとブッ倒して帰ろうぜ!」


僕はたずねた。

「あの、ブッ倒すって言ってますけど、今日のクエストは“害虫駆除”ではないんですか?」


「あ…ああ~。まあ虫の化け物っつうか。そんな感じだから。まっ、どっちにしても君たちは俺らの後ろで援護射撃してくれればいいんだわ。頼むぞ、兄妹きょうだいたち」


「ありがとうございます!」


ここで、チャラガが僕の袖をちょいちょい、と引いてきた。

そして、耳打ちしてきた。

「アタシ、なんかあいつらヤバいにおいがするっ!」


「そうかなぁ??強面こわもてだけど気さくでいい人たちじゃないか」


「これ見て!」

手にはなにやら、小巻き白滝しらたきのようなものを握っていた。

「これはね、『アリアドネの糸』っていって、アタシ達にしか見えない糸で、来た道を記憶していける道具なの。これを垂らしながら森を攻略しよう!」


僕は頷いた。


そして僕らは森の奥へと進んでいった。



*     *     *



道中には、土蜘蛛ツチグモと呼ばれる中型の獣くらいのデカさの蜘蛛が行く手をはばんだ。


迷牛頭は熟達の武器さばきで土蜘蛛を駆逐していく。

「ヤァッ!!」

湾刀わんとうを振り回し、確実に仕留めていく。


「いやぁぁぁぁぁッ!!虫無理ぃぃぃぃぃ!!!」

絶叫のチャラガ。


—————いや、虫無理なんかい!!!!!

お前がこのクエスト受注の提案しましたよね??!!

まあいいや、チャラガにも魔力を活かした戦い方してもらうか!

「チャラガにも言霊の方法を教えるよ、チャラガは駄洒落が得意なんだろ?」


「得意だけど今関係ある?!」


「例えばそうだな…」

もう言霊ラップも慣れたもんだ。前世でフリースタイルしていた感覚でポンポン魔術が使える。楽勝楽勝!安心安心ッ!!


〽「こいつらは

気持ち悪いから手を触れずに

こいつらの脳天


パン パン パン パン パン!

と破裂音がして、土蜘蛛の顳顬こめかみが爆発した。


「おお~!アストラすっご~い!」

チャラガが目をキラキラさせている。

いつだって可愛カワい子ちゃんに讃えられるのは気持ちいいもんだ。


「ざっとこんなもんだ。チャラガもやってごらん。例えば、チャラガは炎の魔法が使えるから、それを駄洒落にして自画自賛すれば魔力が増強するはずだよ」


くっちゃべっている間に土蜘蛛に囲まれてしまった。


「ほら、やってみな!」


チャラガは頷いて、韻を編み始めた。

〽「アタシの

土蜘蛛やっつける


………おわあっ!」


チャラガの両手から炎の塊が手品のように飛び出し、土蜘蛛に直撃していった。

炎を喰らった土蜘蛛は燃え尽き、他の土蜘蛛は逃げていった。


僕らはひとまずほっとした。


—————しかし、それも束の間だった。

なんと迷牛頭の3人がどこにもいないのである。

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