第18話 焼き鳥もぐもぐ~辺境の町チルドコリン

チャラガには焼き鳥ならぬ焼きハルピュイアを食すことを諦めさせ、僕らは丘を下り、ムジャデフ帝国の領地に入っていった。城下町の入り口ににも見張りがいるので、容易に帝国の中心部には入っていくことはできない。あくまで領地内に入っただけだ。


そもそも帝国の領地は広大で、僕らが抜け出してきたティム3世が治める“故郷” コティレオンの領土とは比べ物にならない。


さて、町の宿でも見つけて泊まらなくては。


「アストラ!あそこ、見える?」


チャラガは遠くにポツンと見える町を指差した。


「チルドコリンという町よ。実は、数回訪れたことがあるの。美味しい食事処やきれいな宿屋もあるのよ!」


「いいね!早速行こう。でも、僕の顔、指名手配犯としてバレてないかなぁ」


「平気っしょ!!っていうか、今、お腹空きすぎて頭回らないのよ!!」


—————ダメだ。チャラガは腹ペコ猪突猛進モードに入ってしまっている。なんてったってさっき焼きハルピュイア食おうとしてた女だからな。


こうして、僕らはチルドコリンを目指した。曇り空も晴れて、のどかな風が流れていた。


*     *     *


さっそく食事処に到着し、僕らはよりにもよって鶏料理にありついた。

ハルピュイア焼き殺した後でよくそんな美味そうに食えるなとチャラガには感心した。


どんぐりを頬袋に詰め込んだリスみたいなツラになりながらチャラガは鶏にむしゃぶりついている。


「おいひい~~~!」


ああ可愛ぇ…なんだこの尊い生き物は…ずっと眺めていたい。


しかし幸福な時間はそう長く続かない。


腹一杯になり、マトモな思考回路が戻ってきたのと同時に、僕らはある絶望的事実を突きつけられた。


—————資金が底を突いた。


あまりの空腹感に有り金全部はたいて優雅な昼食ランチむさぼってしまったのだ。


「どうするチャラガ…もう宿屋に泊まるお金がないよ」


「いい考えがある!」

おほん、とチャラガは咳払いをした。

「アタシは、ビュウチフルな踊り子偶像なのだ。その辺の通りで舞踏を披露すれば、投げ銭を稼げるわ!」


「そううまくいくかなあ…」


だが物は試し。僕らは中央広場でパフォーマンスすることにした。

しっかしなんだ、町の空気が重いな。

喪に服してるのかってくらい静まり返っている。


「みなさ~ん!」

チャラガの陽気な声が響き渡る。

「これから舞踏を披露します!」


鮮やかな衣装で、手首足首に鈴をつけ、チャラガが踊り始めた。

薄褐色の肌が煌めく。

陽炎のように揺れる、差す手引く手の艶やかさ。


「………いい」


しかし、見惚れていたのは僕だけだったようだ。


「おいっ!!!余所者よそもん!!!」

突然怒号が聞こえた。町の住人だ。


「今ァそんな気分じゃねえんだ!踊りなんかやめろ!」


僕らはそそくさと広場を後にした。

その辺の少年をつかまえ、何があったのかと尋ねると、彼は小声で話してくれた。


「実はね、つい最近、森の主に生贄をたくさん差し出したんだ。」


「生贄…」


「そう、しかも君たちお兄ちゃんたちくらいの年齢の人ばっかり。僕もよく遊んでもらったお兄ちゃんやお姉ちゃんも連れてかれちゃったんだ」


ストリートパフォーマンスで荒稼ぎもできないとなると、もうクエストでも受注してなんとか宿屋代を確保するしかない。

僕らは町のギルドへ赴いた。


ムジャデフ帝国公認マークが看板についている。


「ギルドへようこそ!」

受付の綺麗なお姉さんが微笑む。

「まずは称号板ステータスプレートをお預かりします」


僕とチャラガは顔を見合わせた。

そして、答えた。


「そんなものはない」

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