第16話 ふたり旅のはじまり~チャラガかわいいよチャラガ

森の出口が見える。

例の大巨人『グレンデナイ』なる化け物を警戒しながら用心深く進んでいたが、結局ヤツは現れず、なんだか拍子抜けだった。


この森を抜ければ、隣国への関所なのだが、ここでチョスリから提案があった。


「アストラ、私はあんたを信じる。でも関所を超えるには手形と身分の証明が必要。あんたは身柄を拘束されかねない。だから…」


チョスリは森の脇道を指した。


「あんた達ふたりは、裏道から隣国『ムジャデフ帝国』の領地にこっそりと侵入するしかないわ」


チャラガがおそるおそる尋ねた。

「それってもしかして」


チョスリは真っ直ぐにチャラガの目を見て、両肩をしかとおさえ、答えた。

「そう、私たちはここでお別れ。あなたの本当の宿命と向き合う時が来た。そういうことよ。これからあんたは、アストラと勇者を見つけ出して、魔王を討伐しなくてはならないわ」


「チョスリ」

チャラガは涙を堪えてチョスリと抱擁を交わした。


「行きなさい。あんたは大丈夫…!昔っからスペシャルだったから」

チョスリは粋に韻繰詩語いんぐりしごを引用した。


—————僕はたった今からこの子の命を預かるんだ…

前世でもこんな経験はなかった。女の子を魔物や世界の脅威から守って冒険…。

でも僕ならきっと大丈夫…!


僕はチャラガと遠くなるウーダオ・クランの馬車を、見えなくなるまで眺めていた。


「…じゃあ行こうか、チャラガ」


「うん」

チャラガは涙をぬぐった。


僕が一歩を踏み出そうとすると、チャラガがか細い声で僕を止めた。


「ア、 アストラ…!」


「?…どうしたの??」


「手、繋いでいい?………ちょっと心細くて」


「も、もちろん…!」


僕らは手をつないだ。

チャラガの繊細な、細い指を感じる。


胸がきゅうとうずく。

—————こんな胸きゅん、しばらくぶりである。とうに忘れ去っていた。心に春が突風のように咲き乱れる!…く、苦しい!…好き!!


かくして、男である限り不治の病とされる、『触られると好きになる症』が僕アストラにも発症したのだった。

そして、急に転生前の感覚も頭をもたげてきた。


—————っていうかこの子、まだ幼いよな…地球でいう高校生くらいか?ああっ…!なんか知らんけどなんだこの背徳感はッ…!俺みたいなオッサンラッパーがこんな幼い子と二人っきりなんて………


心成こころなしか、歩き方もぎごちなく、やや険しめな道を進んでいく。

花と香辛料スパイスみたいな匂いの混ざった、やや野性味のあるチャラガの香りにドキドキしっぱなしだ。


森を抜けると、小高い丘には神殿の廃墟、その柱が剥き出しになってそびえ立っていた。

零落し忘れ去られた神の夢の跡である。


ここを中間地点に、反対側に丘を下っていけばムジャデフ帝国の領地である。


「町に行ったら、ふかふかのベッドで寝よう」


チャラガは喜んだ。

「賛成!寝よう!」


ここで、僕らはどこからともなく視線を感じた。

周りを見渡したが、何者もいないようだった。


そして、視線を柱の上の方にやると…

鳥らしきものが止まっていた。


…人間の顔の。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る