第5話 急襲、ギガント・ゴーレム

いよいよ詩の会が始まり、父さんと僕は詩を紡ぎ始めた。


父さんがうたうのは「超定番」の、王国の成り立ち、国を建てた英雄たちの冒険譚だ。臨場感のある節回しにみな夢中になって聴き入っていた。


そして、僕の番が回ってきた。


〽「大地の鼓動 太古の炎 白道 導く波の脈動

時にいかずちの夢駆ける 空のおと

この身体からだと世界が呼応…」


…とここまで詠い進めた時、異変が起こった。


ズーン、ズズーン…と、なにか地面が響く音がする。


人々がざわつく。


「な…なんだ…???」


地面が揺れだした。

でも、地震じゃない。

一発一発、地面に巨大なものが激突しているような振動だ。


衛兵の一人が絶叫した。


「巨人だァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


衛兵は気絶した。


土煙つちけむりを上げて、接近してくるのは、確かに大型の何かだった。

次第にその姿があらわになる。


それは、ただの巨人ではなく、瓦礫ガレキのような身体を引きずる、魔物だった。

こちらをじっと睥睨へいげいしている。


…それにしてもデカい。だってここお城の3階なのに魔物の胸から上が見えてるじゃん…。


人々は悲鳴を上げ、高価な服を引きずりつつ、這う這うの体で逃げ出す。


イヤミ勇者が口を開いた。

「ちいっ!ゴーレムだ!それも超弩級ちょうどきゅうの!」


そして、このいけ好かない勇者は、通り道でもないのになぜか僕の方に直進してきて、押しのけた。

「邪魔だ!私は今からゴーレムを討伐し、皆を守るのだから!」


「わっ!」

僕は尻餅をついた。

父さんが手を差し伸べ、起こしてくれた。

あの勇者嫌い!ゴーレムを倒してくれても絶対お礼なんて言わない!コロス


勇者が観衆に呼びかけた。


「皆さん下がって!私が退治します!」


そして、勇者は剣を振りかざし、ゴーレムに向かって言い放った。


「さぁ、来いよゴーレム!一瞬で塵芥ちりあくたの山にしてやるのだから!!」


勇者の頭上に巨大なゴーレムの拳が振り下ろされ、彼は視界から消えた。



………………そして、二度と視界へと戻っては来なかった。



あ~…えーと……死んじゃった感じ?



ゴーレムは蒸気を吐きながらその常軌を逸した巨躯きょくを震わせる。

爛々と赤く光る深淵のような二つの眼孔がんこうは王様とお妃様に向けられている。


「モガーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


きっと、王様たちを狙いに来たに違いない。

でも勇者だって歯が立たないし、衛兵たちも王様を逃そうとするのに必死だ。

このままじゃ殺される。父さんと逃げなきゃ!



—————でも、信じられないことに、僕の足はゴーレムに向かって歩みを進め始めていた。


「え………???」


まずいって、僕。


どうしたんだ?


止まれ止まれ!!



「エイヨオッ!」

口が勝手に雄たけびを発した。


どういう仕組みかわからない。

けど、僕の胸の奥の闘争心が沸々フツフツと湧き上がってきた。


ゴーレムがおもむろに首をこちらに回転させてきた。

「……………モガァァ?」


手もひとりでに動き始めた。


右手は咳払いするような形で口元に握り拳を作り、

左手は敵対者オップをロックオンするかのように指差した。


僕の魂がコイツを物故ブッコろせとたけっている…!


そして、僕の口は、戦闘詩ディス・ソングを編み始めた—————

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る