第21話

「では原告。ステファニーの親権を主張されますか?」


 次に裁判長はサリアに問い掛けた。


「はい。ステファニーは私が大事に育てます」


 サリアはハッキリと断言した。


「ではステファニーの親権を原告に委ねます」


 裁判長は木槌をコンコンと鳴らしながらそう言った。


「ふざけるなぁ! そんなことが認められて堪るかぁ! ステファニーは僕の娘だぁ!」


 その判決に雁字搦めにされたデュランが悪足掻きするように喚き散らした。


「静粛に! 静粛に!」


 裁判長が木槌をゴンゴンと鳴らす。


「さて被告人。ステファニーに関する権利は既にあなたの手を離れました。良かったですね? 養育費を払う必要は無くなりましたよ?」


 裁判長は皮肉たっぷりにそう言った。一方、アテが外れたデュランは憔悴し切っていた。そもそもの話、デュランの目論見が実現することは客観的に見てまず有り得なかったのだが。


「ただそれでも、慰謝料を払うという義務は残っていますよ? 頑張って働いて払って下さいね?」


 裁判長の言葉にデュランは絶望した顔で、


「さ、裁判長。は、働くと言われても...は、恥ずかしながら僕はこれまで一度も働いたことがなく...」


 最後の方は尻窄みになりながらそう言った。


「おや、そうなんですか? それは困りましたねぇ」


 裁判長がどうしたものかと首を捻った所に、


「裁判長、発言よろしいでしょうか?」


 原告側の傍聴席から手を挙げた人物が居た。


「あなたは?」


「原告の父です。我が男爵家から職場を紹介してあげようと思うのですが如何でしょうか?」


「おぉっ! それは僥倖ですね! どうぞ! 発言を許可します!」


「ありがとうございます。我が男爵家では傭兵部隊を編成しております。ご承知の通り隣国とは国境付近での小競り合いが絶えません。兵士はいつでも不足しておりますので来て貰えれば大歓迎です。最前線なら給料も高いですし、月々の分割で慰謝料を払う分には十分でしょう」


「なるほどなるほど! それは良いですね! 被告人、良い職場が見付かって良かったですね!」


 裁判長は興奮しながら木槌をゴンゴンと鳴らした。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! イヤだイヤだイヤだぁ~! 最前線なんてイヤぁ~!」


 それとは対照的にデュランは、この世の終わりのような顔をして叫んだ。


「ではこれにて離婚訴訟の裁判を終わります」


 裁判長はそんなデュランを無視して一際高く木槌を鳴らして締めた。


「イヤだイヤだイヤだぁ~! 誰か~! 誰か助けて~!」


 デュランは泣き叫びながら官吏に引き摺られ法廷を後にした。

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