第6話

 翌朝、サリアがステファニーをあやしている所に父親がやって来てこう告げた。


「サリア、婿殿が来たらしいぞ? 客間に通してある」


「そう。遅かったのね」


「どうする? 会うか? 会いたくないなら儂が相手するが?」


「もちろん会うわ。ケリを付けないとね」


「そうか、分かった。だがまずは当主として儂が相手する。お前は呼ばれてから来なさい」


「分かったわ」


 父親が客間に赴くと、周りを屈強な使用人達に囲まれてプレッシャーを掛けられ、顔色を悪くしているデュランの姿があった。


「これはこれは婿殿。こんな朝早くに何用ですかな?」


「だ、男爵...い、いや義父殿...朝っぱらから済まない...そ、その...さ、サリアがこっちに来てないだろうか?」


「はて? 存じませんな?」


「えぇっ!? い、いや...そ、そんなはずは...」


「娘とケンカでもしたんですかな?」


「あ、あぁ、ま、まぁ...そ、そんな所だ...」


 周りからのプレッシャーが次第に強くなって来た。デュランはさっきから額に浮かんだ脂汗を頻りにハンカチで拭いている。


「時に婿殿。娘と結婚した理由は我が家の財産狙いだとのことを小耳に挟んだのですが。それは事実ですかな?」


 デュランの脂汗が止まらなくなって来た。


「だ、誰がそんなことを!? も、もちろんデマに決まってる! 僕はサリアを愛しているから結婚したんだ! 義父殿、それだけは信じて欲しい!」


 デュランは必死で訴えた。どうも旗色が悪そうだ。なんで男爵がそのことを知っているのか? それはつまりサリアが話したからに他ならない。やっぱりサリアは実家に戻っているのだ。デュランはそう確信した。


「娘に『お前とは白い結婚だ』と言ったとか?」


「い、いやいや! そ、そんなことは決して言ってない!」


 ここはシラを切り続けるしかないとデュランは判断した。なぜなら周りからのプレッシャーは既に臨界まで達している。殺意めいたプレッシャーをさっきから受け続けて生きた心地がしない。


 なんなんだコイツら!? どう見ても堅気には見えないぞ!? デュランがそう思うのも無理はない。


 周りを囲っているのは武闘派男爵家が誇る傭兵の精鋭達で、我らがお嬢様を苦しめたデュランに対し、殺意剥き出しで無言のプレッシャーを掛け続けているのだから。


「それでは、他の女に産ませた赤ん坊を娘に世話するようにと言ったことも無いと?」


「も、もちろんだとも! そ、そんな酷いこと言う訳ないだろう!」


「だそうだ、サリア」


 男爵は至って冷静に客間のドアの方を振り返ってそう言った。

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