第7話

 テントの設営を終わらせ、ようやく『ダンジョン』に突入することになった。先導役を務めるのは俺…ではなくかなり屈強そうな人だ。昨日はこの『ダンジョン』の中で何体もの『トノサマンバッタ』を倒したんだけどな。一般人である俺に先導役を任せるのは、彼らの矜持に反するのだろう。


 そうして藤原さんを中心とした30名の精鋭部隊と俺が『ダンジョン』に突入した。他のメンバーは緊急時に備えて外で待機するとのことだ。緊急時があるとは思えないが黙って指示に従った。


 そうして突入した『ダンジョン』は…昨日と変わらず平原が視界一杯に広がっており、あまり緊張感の感じることのできない平穏な場所のままであった。


 事前に説明していたが、やはり藤原さん達も自分たちの知る『ダンジョン』とは似ても似つかない様相に少なからず驚いていることが容易に見て取れた。


「檀上さんからの話では聞いていましたが、我々知るダンジョンとは全く違いますね。作田!〈索敵〉を発動しろ!」


「はい!…反応多数!ですがこれは…反応がかなり弱いですね。あ・の・ゴブリンよりも遥かに」


 なるほど、〈索敵〉の能力の習熟度が上がれば敵のある程度の強さは図れるようになるということか。これはネットにはなかった情報だ。やはり生の探索者とともに行動することは俺にとって少なくない財産になりそうだ。


 そうして作田さんの先導の元反応のあった場所に向かう俺達一行。するとそこには、昨日俺が見たものと同じ『トノサマンバッタ』がいた。


「これが…檀上さんからの情報があったトノサマンバッタか。…ふむ、スキルは無し。まさかゴブリンよりも弱いモンスターが存在していたとはな」


 どうやら〈鑑定〉を発動させたのだろう。『トノサマンバッタ』が俺が言ったように雑魚であったことを確認した後、腰に下げていた軍刀を鞘に入れたまま『トノサマンバッタ』を突いている。


「作田、反応は他にもあるんだったな」


「はい。私たちの周りに数十匹単位の数がいます」


「そうか。ならば…」


 といった確認をした後、藤原さんが鞘の先に力を籠める。その攻撃を『トノサマンバッタ』が耐えきれるわけもなく光の粒子となって消えた。


「弱いな。その辺に生息する昆虫と同じぐらいの強さかもしれん。…檀上さん、こいつを倒して本当に『スキル』を獲得できたんですね」


「はい、『ダンジョン』に入ったのは昨日が初めてだったので、間違いありません」


「となると、これは…」


 そう呟いた後、真剣な面持ちで何かを考え込んだ。これはあれか?あまりにもしょぼい『ダンジョン』なので、この程度のことで連絡をするんじゃない!的な奴なのか?少しばかり罪悪感が湧き上がってくる。とは言え何かあった後に報告するのは愚行でしかないと自分を正当化する。


「檀上さん!」


「はい!申し訳ありません、あまりにもしょぼい『ダンジョン』を見つけてしまって!」


「…?いえ、この『ダンジョン』には素晴らしい可能性が秘められています。もしかしたら、いや、確実にとんでもない発見ですよ!」


 俺とは違い、藤原さんはこの『ダンジョン』を高く評価してくれているようだ。『トノサマンバッタ』のような雑魚、しかも『魔石』をドロップ率の低いこの『ダンジョン』に、一体何をそんなに期待することがあるのだろうかと、疑問を口にする。


「確かにこの『ダンジョン』では『格』を上げることも『魔石』を獲得することには向いているとは言い難いでしょう。ですがここは他の『ダンジョン』にはない、明確な強みがあります」


「強み…ですか?」


「思いつくだけもかなりの物がありますが…とりあえず『スキル』を安全に獲得できる、それだけでも他にはない明確な強みになると言えるでしょう!」


 俺の肩をがしっと掴み、顔を近づけながらそう熱く語る藤原さん。その圧に少しばかり暑苦しいと感じながらも、ここにきてようやく正直に報告して良かったと安堵することが出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る