第九話 【初配信】ゴブリンに屈服させられる美少女勇者②

「ケヒャ!」


 あとはこの振り上げ右手を振り下ろすだけ。

 リーシャの後頭部をこの石でぶん殴って——。


「お姉さん!」


 と、ガーベの思考を断ち切るように背後から聞こえてくる声。

 同時。


「え?」


 やばい。

 リーシャが振り返ろうとしている。


(こ、このままじゃ石で頭を叩こうとしているのを見られる!! うぉおおおおおおおおお! 間に合えぇえええええええええええ!!)


 ガーベはリーシャが振り向くよりも先に、狙いをつけずにどこかへと石を投擲——証拠隠滅を図る。


 カコンッ!

 カカコンッ!


 その石は天井にぶつかった後、さらに壁にぶつかり反射……結果。


「グゲッ!」


 岩の影に隠れ、リーシャを狙っていたゴブリンの頭部へとぶち当たり昏倒させた。

 するとリーシャは。


「すごいです! さすがガーベさん! あそこにゴブリンが隠れているのは、全く気がつきませんでした!」


「え、あ……」


「あそこから攻撃されたら、ひょっとしたらリーシャ……後頭部に攻撃を受けてやられてしまったかもしれません! 見事なフォローです、ありがとうございます!」


「お、おう!」


『リーシャちゃんいい子すぎるだろ』


『ガーべもういらなくね? こいつが出てるとおもんないわ。リーシャちゃんだけ出してもろて』


『ってかさっきの声誰の?』


 アンチ共が最後の最後で、珍しくまともなことを言っている。

 さっきの声はマジで誰だ。


(あの声のせいで、俺の計画は破綻したんだ!)


 許さない。

 と、ガーベすぐさま背後へと振り返る。

 するとそこにいたのは。


「助けて! 僕の村が、僕たちの村が!」


 男の子だ。

 どこかで見たことある気がする。

 たしか……。


「村の子、ですよね!?」


 言って、リーシャは少年の方へと駆け寄っていく。

 そして、怪我の確認をしながらさらに言葉を続ける。


「どうして一人でこんなところに…….怪我はないみたいですけど、もしゴブリンに襲われていたら、怪我じゃすみません!!」


「村がオーガたちに襲われて——だから僕っ!」


「村にって……このタイミングでですか!?」


「お姉さんたちが出て行ったあと、あいつがすぐに来たんだ! しかも今回はいつもより多くて…….みんな勝てなくて、だから……だから僕、助けてほし——」


 途切れる少年の言葉。

 少年の言葉を途切ったのはリーシャだ。


 リーシャは少年のコトを優しく抱きしめ、まるで安心させるような口調で続ける。


「安心してください……助けます。リーシャが絶対に助けてみせます」


『女神だ……』


『ママになってほしい』


『ガーベ蚊帳の外で草。存在感皆無』


 本当にうるさいアンチどもだ。

 タイトル見て釣られた不純な奴らのくせに、今更リーシャリーシャ言っても遅い。


 などなど。

 ガーベが内心で、リスナーへとヘイトを溜めていると。


「ガーベさん、ここを任せて大丈夫でしょうか?」


「は?」


「リーシャはこの子と一緒に村へ戻ります」


「え、いや…….ちょ」


「少し急ぎます、しっかり捕まっていてください!」


「待——っ」


 リーシャさん。

 少年を背負って走って行ってしまった。

 というか。


「マジかよ……」


『リーシャちゃんいなくなったら、この配信見る意味ないじゃん』


『オワコンチャンネル乙』


『つまんな』


 凄まじい速度で去っていくリスナー達。

 五秒も経たないうちに、その数は二人だけになった……しかも。


『ジャガイモ2個、ニンジン、納豆2パック、めかぶ1パック』


『小説書いてます! よかったら読んでみてください、よろしくお願いします! こちらがURLです!』


 人のコメント欄をメモ帳にしてるボケと、宣伝厨だ。

 こんなの残ってても意味ない。


 許さない。


 あのクソガキも、リーシャも許せない。

 あのクソどものせいで、ガーベはこんな目に合っているのだ。


(生まれたコトを後悔させてやる……俺を馬鹿にしやがって! 俺を馬鹿にしやがって! 俺を馬鹿にしやがって!)


「クソ、クソ、クソ、クソがぁああああああ!」


 ガーベは洞窟の壁を何度も何度も蹴り付ける。

 そうしてどれくらいのだった頃か。


「グゲゲ!」


「グゲっ!」


 やばい。

 すっかりゴブリン達に囲まれていた。

 忘れていた、ここがゴブリンの洞窟の中だということに。


 マジでやばい。

 ゴブリンは個体のほぼ全てがオス。

 ガーベの最強スキルこと固有スキル『竿役』はメスにしか使えないのだから。


「し、死ぬ…….く、くそ! あのガキとリーシャのせいで! クソがぁああああああああああ!」

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