第3話 海!!

 河津浜かわづはま海水浴場かいすいよくじょうに向かうため、あたしが先頭、続いてみふゆちゃんと一列で自転車をぐ。


 数十年住んできた町、河津町かわづちょう。流れる景色けしきはいつもと変わらず四方しほうに囲まれた大きな山、その山を守るように緑一面ずっとずっと続く。雲一つない快晴かいせいで、緑がコントラストを上げたようにあざやかだ。


 時々吹くやわらかい風が、葉っぱをリズムよく揺らし、心地よい音色を奏でる。


 大きなビルもマンションもないひらけた道を右へ右へ、そして左へ進む。


 いつもと同じ道を通っているだけなのに、むねがドクドクと高鳴たかなっていて息切れがいつもより早い。


「風がとっても気持ちいいねっ!」


 みふゆちゃんの張った声が、風切り音と一緒に混ざって聞こえた。


 前を確認して、少し後ろを向く。


「そうだねっ! めっっちゃ気持ちいい!」


 そしてめっちゃ楽しい。気分はとても高揚こうようしていた。


 自転車で走っているとわかる、自然豊かで、空気がおいしくて静か。お買い物とかは少し不便だけど、そんなのはどうでもよくなるくらい過ごしやすくて、こんな町が好き。


 しばらく進むと、T字路に突き当たる。ここを左へ、突き当りには大通りに面する交差点が見える。この交差点を右へ曲がると、踊子花街道おどりこはなかいどうに出る。


 この踊子花街道おどりこはなかいどうを真っ直ぐ進むと、河津浜かわづはま海水浴場かいすいよくじょうに着く。



 道幅も広くなり、行きかう車も避けやすくなったため、心に余裕よゆうが生まれる。


 少し、スピードを上げた。


 もう、夏の暑さなんか吹っ飛んでしまった。


 両側に植えられた大きい木が、ビュンビュンと抜けていく。


 途中で伊豆急行線いずきゅうこうせんの河津駅に接する線路の高架下こうかしたをくぐる。日陰ひかげは温度も上がっておらず一瞬ひんやりとした風が手、腕、そして顔をなぞり、にじみ出た汗に反応して体感温度たいかんおんどは少し下がった。


 そこからしばらく、まっすぐ進むとようやく見えたのは海だった。


 少し湿しめった潮風しおかぜ鼻孔びこうをくすぐる。


「おお~~!! 海だ!! やっと着いた! ほら、見てみふゆちゃん!」


 海が日光に反射してキラキラしていて、ダイヤモンドが輝いている様だ。


 その海を見たみふゆちゃんの目もキラキラしていて……。


 こんなにテンションが上がった日は久しぶりだった。


 この海は相模湾さがみわんも、駿河湾するがわんも面していない、特別な海。河津浜かわずはまから見る海の表情は独特どくとくだ。


 ぐーっと望む、地平線ちへいせんは果てしない。空は奥に行くたび青から白へ、そして海と交わる。


「やっと着いたね。こんなに空気がおいしい場所だったなんて今更いまさら気が付いたよ」


 みふゆちゃんはふふふって笑っていた。


「ありがとうね。私と一緒に遊んでくれて」


「いやいや、まだ何もしてないよ。あと、こんなの当然に決まってるじゃん! 私が一番みふゆちゃんを知ってるんだから。これからも、もっと遊ぼうよ!」


 ニッと笑って気合入れた。


「ほら、行くよ。みふゆちゃん」


 みふゆちゃんはコクリと頷いて、自転車のペダルに足を掛けた。

 

 あっちと指さし、小さな売店に向かう。


 とりあえずのどかわいた。水分補給、水分補給。

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