第4話 小野田ソード作成と鶏


「たくっ、せっかく面白いことになったからわざわざ呼びに来たってのに」


「面白いこと?」


「あの刀、上手くいったんだが一人だと磨くのが危なくてな」



「すぐ行きます!!」



小野田くんの髪の毛を使った刀、想像通りなら火の属性の剣となっているはずだ。


そんなの面白そうすぎて寝てられなかった。



「離れて見てろよ」


「「はいっ」」


刀は鉄でできている、一度金属の板にまでして、ハンマーでガンガンと隣の薬局にあったホウ砂をかけて折りたたみ鍛錬してから刀の形にする。


刀の形と言ってもこの過程では歪んだりキレるものではなく刀の形をしているだけの棒だ。それをグラインダーやヤスリで研磨し、刀の形に調整し、形状だけは見かけからも立派な刀身となる。


しかし熱処理がされていない刀は脆く柔らかいので熱を加えて全体の硬度を均一に調整し、全体を磨き直す。


ハンマーで鍛え、グラインダーの熱で内部の鉄の分子構造が偏って脆い状態をここで均一にするわけだ、磨いて僅かな歪みを軽く調整できれば最後に刃先の硬度を焼入れで硬くする。


刃先の硬度は切るのに適していて峰側を固くしすぎないことで割れにくく、切れ味の良い刀となる。


何度か打ち直すのにおやっさんに何度も聞かされて学んだが今はグラインダーやヤスリで大きな凹凸を削り落とす過程だが……。



シュッボッ!シュッボッ!シュッボッ!!



砥石の手磨きでも磨いたて出たカスが火を噴いている。


掘っ立て小屋の一部、作業スペースの端の部分に見慣れない箱があるのでちらりと後ろを見るとシートに大きな焼け跡があった。



「おやっさん……グラインダーでな、全く……変なもんが出来そうだ」


「ファイアスターターみたいですね、マグネシウム合金とかの」


「何だそれ?」


「キャンプ用品で火打ち石みたいなもんです」



幸い、ボコボコした形だけ刀の形をしたそれは凹凸が少ない、削ればそれだけ鉄が減る。だからおやっさんはできるだけ丁寧に、あまり削らなくてもいい具合になるように叩いてくれている。


熱して叩いて形にするのと電動工具で削るのであれば電動工具でやったほうがずっと早いし、何より楽だ。


だが電動のグラインダーは音も凄いしゾンビはこんな山には来ないとは言っても使いにくい。



見ていると同じ力加減で研いでいるように見えるのに火の出方がまちまちだ。折りたたみからここまで叩くのには相当力が必要だったのに……いつものように交代しようとしないのはきっとおやっさんはおやっさんなりに楽しんでいるのだろう。



―――シュボシュボという音を聞きながら、今度こそ寝た。



おやっさんのいびきで起きる刀は良く磨かれていた。数日かけるような作業だけどおやっさんは楽しかったのかもしれない。


今のうちに誰もいないような裏山、入るのも厳しいそこに入っていく。


なにかのドキュメンタリーで見たうろ覚えの罠を作って設置したし効果の程は不明だが様子を見に行く。山の奥は更に山が連なっていて誰もいないし、イノシシよけのバリケードがそこそこ奥にあるから大きな動物はいないはずだ。


いくつか罠を調べたが何もなし、今回も獲物ゼロかなと思っていたら一番遠い罠で音がする。



「コケー!!コココ!」


「まじかよ」



罠はワイヤーを使ったもので足にかかっている。それより思ったよりも大きな茶色い鶏、何処かから逃げてきたのかな?


試しに作った罠で動物性タンパク質が食べたいと思った僕だけど、もちろん鶏をさばいたこともないしこの鶏が雄鶏か雌鶏か卵を生むのかどうかもわからない。


トサカあるとオスなんだよね?いや、雄なら雄で有精卵のために必要なのか?卵は良く食べてたけど鶏の生態なんて今まで全く興味なかったから困る。


若干現実逃避したが捕まえるしか手はないよな?


バタタタと騒ぐ鶏、僕を見たからか盛大に暴れ始めた、ワイヤーがとれるかもと急いで後ろから掴んで持って帰る。



「コケーーっ!!?」


「こら、騒ぐな!!?」



もしも山にゾンビがいたら、そう思うと怖くてあたりを見渡してしまう。


あれ?今、気の間に人がいた……!!?



「ヒョえっハーーーー!!??!!!!?????」



木々の間にだれかいたように思う、暴れる鶏を両手に抱えて歩きにくい山をダッシュで降りる。整地されていない道路は木の根が張って走りにくく泥に滑って泥の中をだいぶしてしまったが騒ぐ鶏は絶対に離さない。何度も転げそうになりながら走る。もしもすぐ後ろになにかいるかも知れないと考えると怖くて振り返れない。


裏山からなんとか生きて帰ると高校生の探索組がいた。



「ゾンビか!!?」

「鶏抱えてるぞ!」

「肉っ!」



槍や鉄パイプ、武器を向けられた。


「はぁっ!はぁっ!!?んぐっゲッフげっフォ!!!??」


「コケェ!ココ!コー!!!」



違う、僕じゃなくて後ろに武器を向けてくれ。


泥だらけだし、人が来ることがないと考えられていた裏山だ。味方だと伝えたいが全力疾走してきて上手く発言できない。横っ腹くっそ痛い。



「喋れるか!!」

「手を上げろ!!日本語通じるか!?」

「動くんじゃねぇ!!!」

「ゾンビじゃねぇか!?やっちまうか!!」

「待て!鶏はよこせ!」

「動くな!動くなよ!!」



手をあげようとしたが動くなだとか鶏はよこせだとかどうしろと?騒ぐ鶏を無理やり抑えているがどうしろと!!?



「加賀さん!?まてお前ら!裏で整備してくれてる加賀さんだ!何やってるんですか!!?」



救世主来た!小野田くん!



「はぁっはぁっ……ゲホッホッ!!」


「コケー!!!」



もう色々と限界だし息もできない。とにかく鶏だけは任せた。せっかく捕まえたのに逃げられるとか最悪すぎる。



「ちょ、この鶏任せる」


「え?こんなのどうすれ……わっ!!?」



しっかりと渡した瞬間、生き物にためらった小野田くんは暴れる鶏を離してしまった。鶏がが学校の方に走っていった。



「逃げたぞ!殺すなよ!捕まえろ!!!」


「まて肉!!」



半分ぐらい高校生たちは追って言って半分ぐらいは僕の顔を知らないからまだ警戒してるのが見て取れた。


なれないことはするもんじゃないな。


コンクリートの地べたに寝転び、息を整えながら手を上げた。

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