第2部 第1話

「またかね!!柊くん!!」

いつも通り頭が薄くなっている上司の怒号を聞いているのは、柊奏多。

しかし今回は奏多がミスをした訳ではなく…上司の伝達ミスでの出来事なので、奏多はとばっちりであった。

(あー…今日も、残業か…)

そう思いながら席に着くと、持っているスマホが震えて開いて見てみると…そこには…

『明日のイベント、待ち合わせ場所はいつもの所で大丈夫ですか?楽しみにしていますね』

という琉斗からのメッセージで、まるでデートの待ち合わせの様なやり取りに奏多の心はキュンとときめいてしまった。


あれから数ヶ月が経ち、奏多はまたコスイベに参加する事を決めた。

女の子達に言われた事をちゃんと全員に伝えると、すぐにゆいが琉斗の後頭部を無理矢理押しながら謝ってきてくれた。

全員、ルールやマナーに気を付けようと話をして奏多は久しぶりに参加する事になったのだ。

スマホをしまうと、同期がじーっと見てきて奏多は「な、何ですか?」と問い掛けた。

「いや、スマホ見て笑っていたんで、もしかして彼女ですか?」

「ち、違いますって。ほら仕事しましょう」

頬を赤らめながら奏多は否定をすると、仕事に集中しだした。


残業を終えて家に帰ると、風呂から上がって保湿パックをしている妹の柊愛佳とばったり出会い「明日の準備ちゃんとしておくんだよ!お兄ちゃん!」と言われてしまった。

奏多は返事をして夕飯と風呂を済ませると、部屋に戻り明日のイベントの準備をしだした。

今回は久々のコスイベという事もあり、前から愛佳がやりたいと言っていたレオンの新しい衣装で参加する事にした。

琉斗には言っていないので、ちょっとしたサプライズでもあった。

(琉斗さん…似合ってるって言ってくれるかな…?)

嬉しそうに笑いながら準備を終えると、すぐに奏多はベッドに入った。久々のコスイベにドキドキして眠れるか不安だったが…疲れもあってすぐにすやすやと眠りについたのであった。


そしてコスイベ当日。

奏多はレオン、愛佳はラッキーの新衣装で待ち合わせ場所で待っていると…そこに「お待たせー」と声がして2人は声のした方を見た。

現れたのはリリィの新衣装に身を包んだ夏川ゆいと奏多の最推しであるマルスの新衣装に身を包んだイケメン男性レイヤーの橘琉斗がいた。

奏多は琉斗を見ると顔を真っ赤にして心の中で叫びながら上から下まで見てしまった。

「お久しぶりです、奏多さん…まさか新衣装だったんですね」

「え、あ、はい…ちょっとサプライズ的な…」

「似合ってます、素敵です」

そう言って手を掴んで見つめてくる琉斗に奏多がアワアワと慌て出すと、ゆいが琉斗の手を無理矢理剥がした。

「過度なスキンシップ禁止!また奏多さんがコスプレ出来なくなるよ、いいのか?」

「……分かった…」

「それじゃあ、早速撮影しましょうか!」

愛佳の言葉に全員賛成すると撮影を開始した。

スキンシップができなくてしゅんとしている琉斗に可愛いなーと思いながら奏多は撮影をしていると、そこに『Receive Insanelove』のコスプレをした女の子達がやってきた。

「あのよければ…一緒に撮影いいですか?」

「いいですよね?」

愛佳が問い掛けると、ゆいはすぐに「いいですよー!」と返事をして奏多と琉斗は顔を見合わせてから同時に頷いた。

すると女の子達は嬉しそうに喜び、荷物を置くと大人数の為、それぞれのポジションを確認した。

ふと、奏多は女の子達の方のカメラマンを見ると凄く顔を下にしてオドオドしていた。もっと見てみると衣装を着ていてそれは狂恋の人気キャラのハイト王子のコスプレだった。

気になった奏多は女の子の1人に声をかけた。

「あ、あの、カメラマンさんは入れなくていいんですか?ハイト王子の格好してるって事は…レイヤーさんですよね?」


「ええ、そうですけど…この子オマケみたいなもんですから…」


まさかの言葉に驚いていると、撮影が開始されて奏多は表情やポーズを作ったが…頭の中ではハイトのコスプレをした人が気になってしまった。


何枚か撮影をすると女の子達はそれぞれお礼を言ってきて、その場を離れようとしたが奏多は思い切って声をかけた。

「あ、あの!ハイトのレイヤーさんと撮影していいですか?」

「え?」

女の子達もハイトをやっている子も目を見開いて驚いており、ハイトがすぐに「い、いや、俺は…」と慌てだしたが、ゆいが腕を掴んで奏多の方に連れてきた。

「私もハイト、レオン、マルスの3人で撮りたかったんで!呼び止めて貰えてナイスです!!」

「ゆいさん、じゃあ撮影お願いします!琉斗さん、いいですか?」

チラリと琉斗を見ると、すぐに「もちろん」と言ってきて、3人で撮ることに。

ハイトを真ん中にして撮影をしようとしていたが、ハイトのレイヤーさんはガチガチに緊張していて表情もポーズもぎこちなく、奏多は優しく声をかけた。

「大丈夫、ゲームのハイトを思い出して?いつも堂々していて、自分を見ろって感じでしょう?自信を持って」

「は、はい…」

奏多の言葉を聞いてハイトは顔を上げると凄く綺麗な顔で、琉斗のマルスと並ぶくらいイケメンで奏多はドキッとしてしまった。

そして、撮影をするとゆいが「本物みたいで良かった!」と言ってきて画面を見せてきた。見てみると本当にゲームの画面から出てきた様にかっこよかった。

「良かったです!ハイト王子素敵でしたよ!!」

「え、あ、ありがとうございます…」

「せっかくのハイト王子なんでシャキッとしている方がいいですよ。それに綺麗な顔が台無しなんで…」

「え……」

奏多の言葉にハイトのレイヤーさんは顔を真っ赤にしていると、愛佳が「お兄ちゃん、そろそろ移動しよー!」と言ってきて奏多は全員に頭を下げてからその場を離れた。


そんな背中をハイトのレイヤーはずっと真っ赤な顔で見つめているのであった…。

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