第9話

あの日、ゆいに誘われ断れなかった奏多は「次の休みの時にレオンのウィッグとメイク道具を持ってここに来てください!」と言われて、お別れになった。


そして休みになり、奏多はゆいに言われた通り、ある駅で荷物を持って待機していた。

人通りが多く、アニメ関係のお店も並んでいて、いつも行っているコスイベの最寄駅でもあったので何をされるのか不安だった。

キョロキョロ見回しながら待っていると、そこにナチュラルな格好をしたゆいが来て奏多はじっと見てしまった。

「おはようございます…って、奏多さん?どうしたんですか、じっと見て…私の可愛さに見惚れちゃいました?」

「あ!可愛いです!……じゃなくて!ご、ごめんなさい…ゆいさん、色んな服を持っているんですね…新鮮だなと思ってつい見ちゃいました…」

「ああ…服結構好きなんで、V系とかロリータとか…色んな服触っていればコスプレ衣装作るのも楽になりますしね」

ゆいの発言に納得して頷いていると、ゆいが「じゃあ行きましょうか!」と言ってきて先に歩き始めたので奏多は後から着いていった。

途中でコンビニに寄ってお菓子や飲み物を買うと、華やかな街からは離れていきマンションが並びだした。

「ここです、ここ」

そう言ってゆいが差したのは、綺麗なマンションで奏多は驚いているとゆいはスタスタ入っていき後から着いていった。

エレベーターに乗り、4階で降りるとスタスタ歩いて1番奥の部屋の前まで行くとそこでピタリと止まり荷物から鍵を出すと普通に開けて扉を開けた。

「さぁ、入って入って!」

笑顔で言ってきたゆいだったが、奏多は少し経ってから「え!?」と驚いてしまった。

一応女性の部屋である為、入っていいのか悩んでしまい唸っていると痺れを切らしたゆいが無理矢理奏多の背中を押して中に押し込み、扉を閉めてしまった。

「ちょ、ゆいさん!?」

「何を心配しているのか知りませんが…大丈夫ですよ、ここ私の家ではないんで!はい、どうぞ!」

家ではない…という言葉に首を傾げているとゆいは靴を脱いで少し薄暗い廊下を歩いて1番奥の扉の前に立った。

「お邪魔します…」と言ってから奏多も靴を脱いで付いて行くと…ゆいは奏多の方に振り返ってニッコリ笑うとゆっくり扉を開けた。


「どうぞ、ここが私のスタジオです」


扉を開けた先を見ると、そこには撮影スタジオの様な機材や背景紙があって奏多は目を見開いてじっと見つめてしまった。

「え、ここって…撮影スタジオ?」

「私の趣味のですがね!琉斗にコスプレ衣装着て貰って撮影して、布の光沢とかカメラの設定を弄っているんですよ!」

「い、いやいや、趣味の範疇超えちゃってるよ、これは…」

「まぁまぁ!今日はここで私がレオンの衣装作ったんで、それ着て撮影しませんか?」

まさかの提案に奏多はすぐに「無理無理…」と首を横に振ったが…ゆいにじーっと見られてしまい圧に断れなくなってしまい、奏多は衣装を借りてウィッグとメイクをしてレオンのコスプレをした。


「わー!!流石、奏多さん!!」

用意された衣装はこの間あったレオンのバースデーイベントの時の特別衣装で細かいところも何もかもちゃんと公式寄りで奏多は驚いてしまった。

「こ、これ、ゆいさんが作ったの?」

「そうですよ、いつも衣装は全部私が作ってます!」

「すごい…よくこんな細かく出来ますね…」

いつも奏多の衣装は愛佳が用意しているが…細かいところが見れなくてひんひん泣いているのを何回も見かけていたから、ここまで細かいのは凄いと思ってしまった。

「さぁ、今日はとっっっことん!!!私の撮影に付き合って貰いますからね!!」

「よ、よろしく…お願いします…」

こうして撮影が始まり、奏多はゆいに言われた通りのポーズをとって撮影に挑んだ。

本格的すぎる機材ライトの眩しさに目を細めそうになったが…何とか耐えて言われた通りの表情やポーズで頑張っていると、コスイベの時の様な楽しさが蘇ってきた。

もっともっと…と望んでいると…カメラを置いたゆいが問いかけてきた。


「コスプレ…嫌いですか?」


質問内容に少し考えてからポーズをやめると、奏多の目からポロリと涙が流れだした。

すぐに涙を止めようとしたが…全く止まらなかった。

「ご、ごめ…ゆいさん、今すぐ、泣き止む…から…っ」

「奏多さん、好きですよね…コスプレ…」

ハンカチを差し出されながらの質問に奏多かハンカチを受け取った。

そして心の中では答えが決まっていた。


「大好き…また、皆と、琉斗さんとコスプレしたい…」


「それ、本当ですか?」

突然聞こえたゆい以外の声に奏多は顔を上げて声のした方を見た。

するとそこにいたのは琉斗だった。

「何で、琉斗さんが…」

まさかの琉斗の登場に奏多は驚き慌てていると、腕が伸びてきていきなりギュッと抱き締められてしまった。

その時、あの女の子達の言葉が頭を過ぎりすぐさま奏多は琉斗を離そうとしたが力が強く離せなかった。

「りゅ、琉斗さん?あ、あの…」

「奏多さん、俺とまたコスプレやってくれますか?」

耳元で囁かれた言葉に奏多の鼓動はドキドキと早くなった。

ふと周りを確認すると…ゆいの姿がなく2人っきりになっていて、誰にも見られていないと分かると奏多は恐る恐る腕を背中に回してギュッと抱き締め返して琉斗だけにしか聞こえない小さな声で呟いた。


「はい、やりたいです…琉斗さんと一緒に……」

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