笑われても、君が好き。大学生編

りおん

第1章 大学一年生

第1話「入学式」

 四月、桜が咲いていて、暖かい日も増えて嬉しい気持ちになる、そんな春。

 僕、日車団吉ひぐるまだんきちは今日大学の入学式を迎える。楽しかった高校生活が終わり、新しい生活が始まるのだ。

 僕は母さんに買ってもらったスーツに身を包んだ。あまり着慣れなくて、ネクタイもちょっと変な気がするが大丈夫だろうか。父さんがいたら色々と教えてくれたのかなと、ふと思ってしまった。

 リビングに行くと、母さんの日車沙織ひぐるまさおりと、妹の日車日向ひぐるまひなたがいた。我が家の猫のみるくはベッドで寝ているみたいだ。


「あら、団吉準備できたの?」

「あ、うん、スーツ着てみたんだけど、変かな……?」

「ふふふ、大丈夫よ、ピッタリで似合ってるわ。あ、ちょっとネクタイが曲がってるわね、こっちにおいで」


 母さんがそう言ってネクタイを整えてくれた。


「うわー! お兄ちゃんカッコいい! 大人の男性って感じがするねー!」

「お、おう、ありがとう。そういえば日向、ほんとに入学式について来るつもりなのか……?」

「もっちろーん! お母さんはお仕事だからね、私が保護者代表になってあげようではないか!」

「えぇ、なんでそんな上から目線なんだよ……ま、まぁいいけど」


 そう、今日の入学式は保護者が二名まで来ていいとのことだったが、なぜか春休み中の日向が行くと言い出したのだ。母さんは仕事だし一人で行くかと思っていたのだが……。


「ふふふ、二人とも相変わらず仲良しね。あ、そうだ、行く前に二人並んで写真撮らせて~」

「え!? い、いや、それはやめておかない……?」

「えーいいじゃん、ほらお兄ちゃん、こっちこっち!」


 日向に引っ張られて、二人並んで写真を撮られた。う、うう、恥ずかしい……。

 ま、まぁ、気を取り直して、母さんに見送られて二人で家を出る。大学は駅前から電車に十五分くらい乗って、最寄駅から歩いて行く……のだが、日向がずっと僕の左手を握っているのはどういうことだろうか。日向もこの春から高校二年生だ。そろそろ兄離れしてもいいのではないかと思うが、その気配は全くなかった。


(や、ヤバい、なんか視線を感じる……こいつ入学式に彼女連れて来てるとか思われてないだろうか……みなさんこれは妹です、お許しを……!)


「へぇー、ここが大学かぁー、桐西大学とうせいだいがくって大きく書いてあるね」


 日向が校門で立ち止まって言った。


「あ、うん、青桜高校せいおうこうこうも広いけど、ここはもっと大きくて広いよ」

「そっかー、私はさすがにこの大学には行けないだろうけど、なんかキャンパスライフ? っていうの憧れるなー!」

「お、おう、そういえばお前三学期のテスト、数学が赤点スレスレだっ――」

「お、お兄ちゃん! それは言わないで! あああまた思い出してしまった……」

「だからちゃんと勉強しとけって言ったろ? まったく、また教えてやるからな」

「う、ううー、お兄ちゃんが勉強しろって言う……バカー」


 ぶーぶー文句を言う日向だった。青桜高校というのは僕が卒業した高校だ。今は日向が通っている。

 今日は大きな講堂に新入生が集まって、学長の挨拶などがあるらしい。僕と日向も講堂へ向かった。


「お、おお、ここも大きいね……なんか高校の体育館がミニチュアに感じる……」

「そ、そうか、まぁ大学生の人数が多いからな、建物も大きいんだろうな。あ、日向はあっちから上がって席に座っておくといいよ。僕は正面に行かないといけないので」

「うん、分かったー、終わったら入り口で待ってるねー」


 日向が手を振りながら二階の席へ行った……って、ほんとに妹とは思われていないのではないか……?

 そ、それはいいとして、入学式が始まった。学長の挨拶があり、難しい言葉もあったが、「みなさんは無限の可能性を持った素晴らしい人たちです。ぜひこの桐西大学でたくさんのことを学んで、大きく成長してください」と言っていた。

 新入生代表の挨拶もあった。ああいうのに選ばれるのは大変だろうな……と思いながら、ここには僕よりも勉強ができる人が多くいるだろうとも思った。負けないように頑張ろうとひっそりと気合いを入れていた。

 その後来賓の方の祝辞、各部局長等の紹介もあって、無事に入学式が終了した。そういえば日向は終わったら講堂の入り口で待つと言っていたなと思って移動すると、僕を見つけたのか手を振っている日向がいた。


「お兄ちゃんお疲れさまー! すごいね、なんか大人って感じがした!」

「そうか、まぁ高校もそれなりに大人に近づいた感じしたけど、大学はそれ以上だなぁ」

「うんうん、これでお兄ちゃんも大学生かぁー、あ、変なサークルに入って飲み会に行って、酔って女性をナンパしたらダメだからね! 絵菜えなさんに言いつけるよ!」

「お、お前どこでそんな知識身につけたんだ……まだ未成年だし、そんなことしないよ」


 日向が言った絵菜さんというのは、沢井絵菜さわいえな。ぼ、僕の彼女であり、大事な人だ。絵菜はこの春から専門学校に行くことになっている。僕よりも入学式は遅いと言っていたが、いつ頃だろうか。帰ったら通話してみようかなと思った。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。みるくも待ってるはずだし」

「うん! あ、その前に駅前の喫茶店に寄らない? 喉渇いちゃったよー」

「ああ、それもいいかも……って、お前おごってもらう気だな……?」

「あ、バレた? ねぇーいいでしょーお願い~」


 日向が僕の左腕に絡みついて甘えた声を出した。だ、だから誤解されるって……。


「わ、分かったから、そんなにくっつくなって」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」


 来た時と同じようにニコニコで僕の左手を握る日向。う、うーん、やっぱり僕から離れた方がいいのかな……。

 とにかく、大学生としての第一歩を踏み出したのだ。僕はこれからもたくさんのことを学び、たまには息抜きで遊んで、楽しんでいこうと思っていた。

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