第20話 なんか見つけた

 装備を整えると言っても大したものがあるわけではない。

 それでも無いよりはマシだよな。家にある道具は限られているものの、野外活動をする際の七つ道具的なものがあった。

 便利な家電やらがあるところでは無いので、こういう道具が備になっているようでありがたい。

 全て再構成して新品に更新済みだから安心して使うことができる。

 ロープ、ロープを引っかけて固定するフック、ノミ、網、網を固定する金具をザックに詰める。残りの二つは腰のポーチに入っている。火打ち石と火種だね。

 これは普段から持ち歩いているものである。この他には腰にさしたナタやナイフといったところ。

 縄梯子なども持っていくか迷ったが、フェンリルが登れないところだど縄梯子を使っても無理だろうと判断した。

 高いところや穴の中ならパックにお任せしかないかな。俺がやると足を踏み外して……なんてことになりかねないから。

 わざわざリスクを負ってまで進まなくても良いかなってね。

 縄梯子を使って登った先に元の世界へ戻る扉があるとかなら、挑戦するけど……。


「何か危険を感じたらすぐ教えて欲しい。ダッシュで逃げよう」

『ほおい』

「がおー」


 そんなわけで再び階段前である。

 フェンリル(仮)の耳ライトで視界も良好。すぐに大広間まで戻ってきた。

 さて、準備だ。

 ロープを自分の身体にくくりつけ、フェンリルの胴体にもロープを通す。

 左手でいつでもフェンリルと切り離せるようにしておいた。

 これはフェンリル(仮)の急発進で俺の体が投げ出されないようにする対策だ。緊急事態発生時には全力疾走するかもしれないからね。

 ゆっくりと、ゆっくりとだ。

 のっしのっしとフェンリル(仮)が歩を進める。

 ぐるっと大広間を回った結果、ここには何もなく右と前方に回廊があった。

 回廊はどちらも十分な道幅があり、天井も高くフェンリル(仮)に騎乗していてもまだ見上げるほど高い。


「さて、どっちから見て行こうか」

『どっちもー』

「この地下って鉄扉の中と違って単に地下室ってわけじゃないんじゃないかって思ってるんだけど」

『広そうだよねー』


 カモメのパックはいつもの陽気さで無邪気に右の翼を上にあげる。

 俺の言わんとしていることが彼に伝わっているのか不安になり、もう少し自分の考えを伝えることにした。


「迷宮とかダンジョンって呼ばれるようなところかもって思ってさ?」

『ラビリンス! 面白そう!』

「お、面白いかな……ラビリンスって怖いモンスターがいたりとか?」

『んー。どうなんだろー。モンスターが自然発生するってことはないんじゃないー?』


 パック情報だから正確性に欠けることは重々承知している。

 それでも、「モンスターが自然発生することはない」って聞くことが出来て内心ホッとした。

 完全に封印されていたとしたら、モンスターは入ってこれないだろうし、閉じ込められたままだったならそのうち寿命が尽きていなくなる。

 繁殖していたとしても食べるものがないし、結果は死滅するで変わらない。

 ただ、「完全に封印されていた」としたら、だ。

 どこかに外へ出る道があれば、前提は崩れモンスターの巣となっている可能性がある。

 外か……。


「風が流れていたり、とか」

『風?』

「ほら、階段が外に繋がったじゃない。他に出口があれば風が流れるかなって」

『リュウは風の流れが分かるの?』

「いんや、全く」


 試しに人差し指を濡らして指を立ててみたが、少しひんやりするだけで風の流れなど全く分からない。

 そうだ。鳥は風の流れを読んで飛翔すると聞いたことがある。

 しかし、パックは首を伸ばし嘴を左右に振った。


「がおー」

「うお」


 後ろに体が引っ張られ、結んだ縄がギシギシと音を立てる。

 急すぎる発進にしがみつく手が追いつかなかった。フェンリル(仮)はでかい図体の割に動きがスムーズなんだよね。

 小回りもきくし乗っていて投げ出されそうになることもあまりない。

 いくら揺れが少ないといっても加速や傾斜は物理法則に従うわけで……首を傷めずに良かった。

 彼に悪気はないし、乗せてくれることをありがたく思っている。

 

 それにしても、かつてないスピードで彼が進んでいる。

 最初の揺れ的に右側のルートを進んだ……と思う。


『兄ちゃん、あれ』

「え?」


 パックが何かを見つけたようだけど、速すぎて目が追いつかない。

 フェンリル(仮)の右耳ランプは付きっぱなしなのだけど、車のライトと違って前方を照らすものではないから数メートル先くらいまでしか見えないんだよね。

 うんと、待てよ。指向性を付けてあげればましになるんじゃないか? いや、今は速すぎて無理だ。

 

「パック、何が見えたの?」

『おいらも暗いところは見えないんだけど、何か動いた気がしたんだ』

「俺たちが移動していて、光も移動しているから動いたのか動いてないのか判断が難しいな」

『一瞬だけしか見えないから、ハッキリとは分からないよお』

「だよなあ」

『あははー』


 パックと笑い合う。

 喋っている間にも景色はどんどん流れていく。暗くてよく見えないけど、光の流れでどれだけ速度が出ているのかってのはある程度分かる。

 これまでで一番の速度が出ているんじゃないかな。普段フェンリル(仮)には速度を抑えて走ってもらっているのだが、本気を出すとここまで速かったとは驚きである。


「お」


 フェンリル(仮)の速度が落ち、いつもの走る速度になり、散歩するくらいの速度になった。

 どれだけ進んできたんだろう。

 途中に部屋があったのか坂があったのか皆目見当がつかない。少なくとも階段を登ったり降りたり、ドアを蹴破ったりなんてことはしていないはず。

 階段を登ったりしたらいくら俺がおまぬけでも見えるからね。

 ゆっくりとした動きになったので周囲をつぶさに観察する余裕が出てきた。

 どうやらここは回廊のようで、後ろがT字路になっていてどっちかからこの道に入ってきたはず。


「がおー」


 フェンリル(仮)が立ち止まり、顔を上にあげる。

 彼の耳の光は大きな扉を照らしていた。

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