第18話 ぐあ、ぐあああ!

 地図を出して目の前の風景と比べて唸りをあげる。

 ×マークだろ、んで右側に木が斜めに並んでいて左手に木が三本あり、大きな三角形の岩が……。


「この辺りだと思うんだけどなあ……」

『見せて―』

「ぐあ」

『こいつ!』

「カラフルもパックも一旦落ち着け」


 地図を覗き込もうとしたカモメ姿のパックをカラフルな鳥が大きな黄色い嘴で邪魔をする。

 まあまあ、とお互いを指先でちょこんと突くとひとまずどちらも引いてくれた。

 

『何も無いね』

「そうなんだよな、ほらそこの三角形の岩があるだろ、×マークの場所で間違いないと思うんだよな」

『岩で塞がれていて見えないとか?』

「探ってみようか」


 眺めていても何も進まないよな。

 行ってみたものの、×マークの辺りは岩がゴロゴロ転がっているだけで何も無い。いや、雑草なら生い茂っている。

 これならまだ三角形の岩の方が何かありそうだよ。

 大量にある石をコツンと蹴ってみたが、特に反応はない。当たり前と言えば当たり前である。


「石の量は多いよな。大きめの石もあるし。瓦礫に見えなくもない?」

『石ころが何かだったら兄ちゃんの出番だね!』


 何かの瓦礫だったら再構成が反応するかも……そう思って実はとっくに石へ両手で触れていたのだ。結果は反応無しである。

 元々何かの構造物だったのなら再構成が反応するはずなのだけど、何も無さそうだ。

 過去に何かあって今は無い、のかなあ。しかし、家が崩れていたものの原型を留めていた。

 同じくらいの年月だったとして、完全に跡形もなくなるなんてことはあるのだろうか?

 モノによっては有り得る、だろうな。

 たとえば、旗とかカカシみたいなものが立っていただけなら飛ばされてどこかへ行ってしまっていてもおかしくない。

 ん?


「がおうお」

「お腹空いたの?」


 フェンリルがズボンを口で引っ張ってきたので彼の頭を撫で撫でした。フワフワで気持ち良い……このままもっと撫でて……いかん、今は探索中だ。


「んーやっぱり何もないな。『開けゴマ』とかのキーワードで『ゴゴゴゴゴ』とか地面が揺れて効果音と共に階段が……なんてことがない限りここには何も無さそうだよ」

「がおー」


 フェンリルが後ろ足だけで立ち上がり、気の抜ける声と共にバンザイのポーズになる。

 何か起こるのかとドキドキして待ち構えるものの、何も変化がない。

 虚しい時間が過ぎ、何事も無かったかのようにフェンリルが前足を地面につけ、のしのしと歩き始めた。

 三角形の岩の前で止まった彼が前足を振り抜く。

 ガラガラと岩が崩れ落ちることもなく、三角形の岩はびくともしなかった。

 ……痛くないのかな、腕。

 特に痛がる様子もなく俺の足元に戻ってきた彼は小石を咥えて俺に向けた。

 そんなつぶらな瞳で見つめられると受け取らずにはいられないじゃないか。

 はい、と両手揃えてを開き、小石を受け取った。

 

『石材が不足しています』

「え?」


 え、えええ。再構成が反応した!

 石が足りないそうだ。小石を集めるのは手間だし、量が足りるのかもわからない。


「あ、石ならあるじゃないか」


 てくてくと三角形の岩の元まで歩き、片手を当てる。


『石材を消費して、再構成可能です。再構成しますか?』

「再構成する」


 すると小石が光り始めると同時に俺の体が宙を舞った。


「うお!」

 

 突然のことに驚き悲鳴をあげるが、とすんとフワフワな背中に顔と体が埋まった。

 そこでようやく状況に気が付く。

 光だけじゃなく、モワモワとした煙まであがっており、先ほどまで俺がいた場所に何かが再構成されようとしていた。

 あのまま、あの場所にいたら怪我をしていたに違いない。


「ありがとう」

「がおー」


 フェンリル(仮)にお礼を述べると、いつもの気の抜ける鳴き声を返してくる。

 俺が危ないと見た彼が俺を背中に乗せて退避してくれたんだな。

 煙が晴れると謎の構造物が出現していた!

 一番目を引くのは円柱だ。直径が1.5メートルくらいで高さが4メートルといったところか。

 近すぎるので上部がよく見えないけど、ドーム状になっていそうだ。何となく湾曲しているように見えるからね。

 円柱は黒曜石か何かで作られていたのか、真っ黒である。

 三角形の石は白っぽい色をしていたのだけど、石は石だから色なんて関係なく使われる……らしい。

 着色とかどうしているんだろ、その場合の素材はどうなってんの? とか、相変わらず再構成は不思議である。

 何度目にもなるけど、考えても仕方ないのでそういうものだと受け入れるが吉。

 円柱以外には円柱を囲むように庭石のような石が円形に置かれている。


「なんだかモニュメントみたいだな」

『魔法陣の一種なのかな?』

「ああ、そういう考え方もあるのか」

『そういうって? 兄ちゃんは別のことを考えていたの?』

「宗教的な何かなのかなと思って。ここで祈りを捧げていたのかなと」

『ふうん、そういうこともあるんだね!』

「あったかどうかは分からないけどね。あくまで想像だよ」


 円柱にそれを囲む岩って地球で見たことがあるモニュメントなんだよね。

 見たことがあると言っても実際に見たわけじゃなく、写真である。

 石で作られた巨大なモニュメント……ストーンサークルと呼ばれているものの一種だ。

 ストーンサークルは古代の宗教的な建造物だと何かで読んだ記憶がある。

 この世界では全く違う用途で利用されていたのかもなあ。魔法のある世界だから、パックの言うような魔法陣的なものと考える方が良いかもしれない。

 といっても、魔法のことなんて全くもって分からないのでどうもこうもできないのだけどさ。

 パックも疑問形で魔法陣と言っていたので、どうにかできそうにない。


「触れても大丈夫かなあ」

 

 このまま何もせずに帰るのも勿体ない。

 恐る恐る円柱ににじり寄り、ペタリと手を当てた。

 ひんやりしていて気持ちいいかも?

 ……いや、そう言う事じゃなくてだな。

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