第2話 家発見! さっそく新品に

 砂浜との境界はヤシの木がポツポツ生え、間に膝下くらいの藪が生い茂っており、歩くには支障がない。

 地面は柔らかく走ると足を取られて転びそうだ。

 数十メートルくらい進むと地面が硬くなるが、草がしっかりしたものに変わった。

 低木が歩くのを邪魔する。枝をナタで落としながらゆっくりと歩を進めていく。

 ヤシの木も見なくなった。といっても木がないわけじゃなく背の高い木が自生している。

 何となくではあるが、植生は熱帯性をを彷彿とさせた。

 

「お、これ」


 20センチほどの湾曲した房がびっしりと密集して垂れさがったものが目に入る。

 一つ一つの密集した房は俺の身長ほどもあった。色は深い緑色のものもあれば、黄色のものもある。


「バナナじゃないかな」


 ついつい声が出てしまうのは一人暮らしあるあるだよな。

 黄色く熟れた房を一つ切り取りナタを置く。

 これはバナナで間違いない。品種改良されてないバナナは種ばかりで食べるに厳しいと聞いたことがあるが、果たして。

 両手でバナナを握ってみたが、さきほどのように脳内メッセージは流れてこなかった。

 再構成で美味しいバナナにできるかもと思ったが、ナタのようにはいかないらしい。

 この場でバナナを食べたいところだが、我慢した方がいいと判断した。

 食べても安全かどうか分からないから食べないと? いやいや、食べるよ。

 まだ空腹感はないし、バナナがある場所は把握している。

 もし今すぐバナナを食べて調子が悪くなったらこれ以上探索できなくなるからね。

 後ろ髪引かれる思いながら、バナナの群生地を素通りする。

 この島(仮)に真水があるかどうかは分からない。だけど、あるとすれば海から離れたところだろうから奥へ奥へ進んでみよう。

 

 腕時計を確認すると浜辺を出てから45分ほど経過していた。

 歩いていて気が付いたのだけど、道が無くとも歩きやすいところと枝やらが絡まって進むのを中断した場所がある。

 これが獣道じゃないかなと思ってたのだけど、なんだか少し違う気がするんだよ。

 一度石や枝を取り除いた後に草が生えてきたみたいな?

 俺にとっては幸運なことなので歩きやすいところを選んで進む。


「もしかしたら……」


 やはり獣道だとは思えない。獣は大きめの石を移動させたりなんてしないもの。

 歩きやすい場所は誰かが整備した道だったんじゃいか、という気持ちが確信に変わっていく。

 「誰かが整備した」ってことは過去に誰かいたかもしれないってことだ。

 今ではない。もし今も道を使っているのなら石まで移動させた人が草を刈らないってことは考え辛いんじゃないかなとね。

 これだけ長い道を作ることができたのなら、「拠点」もあるんじゃいかと期待が高まる。

 ワクワクしながら進んでいたらついに建物らしきものが見えたんだ!

 

「う、うーん」


 建物……と言うには劣化が進み過ぎている。

 元は木造住宅だったのだろうけど、海の傍だからか損傷具合が激しい。

 壁を構成する板は半ばで折れ、外や屋内に破片が散らばっている。屋根も崩れ落ち屋内に入らずとも中の様子を窺うことができた。

 元は二階建てだったらしく、一部の階段と二階部分の床が残っている。

 予想以上の廃墟具合に戦慄するが、頭に響いた謎の「再構成」でどうにかなるかもしれないと自分で自分を鼓舞した。

 「いける、大丈夫だ、俺」ってね。

 ちょっと痛い奴になってしまった感があるが、俺以外誰もいないし問題なかろう。

 屋内に踏み込む前に建物……廃墟の周囲を探索してみることにした。

 俺がやってきた方向の裏手に石造りの井戸らしきものとその傍に朽ちた水桶があったのだ!


「水が来たああ!」


 嬉しくて叫ぶと、水桶がゴソゴソ動き肩がビクリと上がり青ざめる。

 水桶からひょこっと顔をあげたそれは見たことのある動物だった。そいつは俺の方をじっと見るが、すぐに顔を元の位置に戻す。

 大きな鼻と細長い目、小さな耳に薄茶色の体毛……可愛くはないが愛嬌のある顔はカピバラである。

 カピバラは俺が近くにいるというのに水桶から動こうとはしない。俺に敵意がないと思ってくれたのかな?

 まあ、その通りなのだけど逃げ去っていかないのをいいことに水桶を覗き込んでみた。

 カピバラは水桶の底を舐めていたが、水桶は破損して雨が降っても僅かしか水が溜まらなそうだし、僅かに残った水分を舐めているのかな?


「よっし、待ってろよ」


 ちょうど井戸がある。

 縄を引っ張って水桶を持ち上げる古いタイプの井戸だ。今時珍しいが、自作したとしたら凄すぎると思う。

 穴を掘って石を積んで、だろ。俺にはとてもじゃないけど無理だ。

 島(仮)の奥を目指したのも小川がないかなと期待してのものだった。井戸があるなんて望外の喜びである。

 ……ともあれ。

 両手で縄を掴む。

 

『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』

「よおおっし、来たあ! 再構成する」

『不必要な素材は消滅します』


 縄が光り、薄汚れた色が新品同様に変わる。

 このまま引っ張ると縄が切れそうだったからありがたい。あとは……井戸の底が暗くて見えないけど、ソロリソロリと様子を見つつ縄を引く。

 水が入った重たさはないが、縄だけの重さではない感触だ。

 いいぞ、このまま。

 ロープから水桶が外れていないかヒヤヒヤした。幸い劣化して水を溜めることができなくなっていたが、水桶はロープに固定されていてホッとする。

 ロープは新品で水桶がボロボロってのは結構シュールだな。

 今度は水桶を両手で掴む。

 

『木材が不足しています。再構成をするには木材を準備してください』

「欠けている分の木が必要なのか」


 木なら朽ちたものが落ちている。朽ちた木片と水桶の双方に触れてみた。

 

『木材を消費して、再構成可能です。再構成しますか?』 

「再構成する」

『不必要な素材は消滅します』


 木片と水桶の双方が光り、水桶が新品に変化する。それと同時に木片が半分くらい消滅した。

 ついでだ。今度は井戸そのものに振れ、こちらは素材の必要がなかったのでそのまま再構成する。

 これで井戸は新品同様になった。

 井戸から水を汲み、水桶に注ごうとして手を止める。

 カピパラが入っている大きな水桶は水を溜めることができないからな。

 井戸の方の水桶を地面に置くと、カピバラがのそのそ動いて鼻をピクピクさせ水の中に顔を突っ込む。

 カピバラがうまそうに水を飲んでいるのを後目に、俺は彼のいた大きな水桶に両手を当てた。

 こちらも木材が不足していたようなので、同じ要領で新品に変化させる。


「ふう……」

 

 一仕事を終え息をつくと、水を飲んで満足したらしいカピバラが俺の脛に鼻を擦り付けてきた。

 彼なりのお礼だろうか。

 あ、そうだ。

 

「これ、食べてみる?」


 一本だけ持ってきたバナナを皮ごと地面に置く。

 するとカピバラがむしゃむしゃとそれを食べ始めた。

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