第6話 その後


「はぁぁぁぁ……」


 公園の噴水にて、俺はベンチに腰掛けたままため息をついた。

 体が重たい、何だか一気に疲れた気がする。まぁあれ程現実離れした出来事が立て続けに起きれば無理もないか。

 むしろ気絶していない自分を自分でほめてやりたいくらいだ。

 そんなことを思いながら、オレンジ色の光に包まれて、暖色に染まった自分の手のひらに視線をやる。

 つい数時間前まで、何の変哲もないモブ男子生徒でしかなかった俺が、訳の分からない事態に巻き込まれている……。


「こういうことじゃねぇんだよなァ」


 まぁ、胸をもめるのは悪くない話だが……。


「いや、胸もめるに対するリスクデカすぎるだろ……」


 考えなしに俺も戦うぅ~なんて言った自分が我ながら憎い。溜息程度では到底吐き出しきれないほどの感情の渦に支配されながら俺は公園の時計をぼんやり眺めた。


「まだ六時……か」


 何だかもう既に五日は立っているような気がしたのだが、さすがに気のせいらしい。夏休み初日の午後六時。なんだか時間がたつのは遅いと、今日初めて思った。


「てか、あいつら遅すぎだろ……何してるんだよ」


 そう、俺は何も無意味に公園でだらだらと過ごしているのではない。


「女の子にはいろいろあるのよ、アンタ女心を全く理解してないわね」

「あぁやっと帰ってきたか」」


 声のした方に視線をやって、俺は愕然とした。

 金色の髪をふわりとなびかせた美少女がそこには立っていた。ジーパンに腹部を露出したシャツ。

 その美しいスタイルにはそんな恰好が非常によく似合っている。月並みだが、気の強そうな、姿はギャルっぽく見える。


「あぁ、どちら様?」

「ルナよ! あんた喧嘩売ってるの!?」

「あぁ、馬子にも衣裳とはこのことだな」

「最低。ぶっ飛ばすわよ」

「あぁ、今のは間違えただけだ。……その紙袋は?」

「着替えとかその他、諸々よ。アンタデリカシーとかないわけ?」


 女子には色々あるのよ。と付け加えたルナは大切そうに紙袋を抱えなおした。


「てかシエルは? 一緒に行ってたんじゃなかったのかよ」

「あぁ、あの子なら……」


 そう言ってルナは自分が歩いてきたであろう方向を指さした。

 大きな紙袋を抱えた銀髪の美女が歩いてきている。その服装は髪の毛によく映える白いワンピースだった。

 まるで絵の中のような景色に、俺は息をするのも忘れてそれを見ていた。


「……あぁ、似合ってるな、シエル……」

「そう、かな……。ありがとう」

「ちょっと、私の時とリアクション全然違くない?」


 ルナからの抗議の視線を受けながら、俺はソレを軽く受け流す。


「さて、目的の物も買えたわけだし……ボチボチ帰るとするか……!」

「……」

「……」


 俺がそういったその瞬間、二人は突然黙ってうつむいてしまった。

「どうしたんだよお前ら……いきなり黙りこくって……」

「帰る場所、ないのよね……私達」

「?」

「私達は、今日こちらに来たばかり。だから、仕方ないと思う」


 いったい彼女らは何を言っているというのか。さっぱり意味が理解できず、俺は首をひねった。


「俺ん家来るんじゃねぇの?」

「え!?」

「ちょ、アンタそれ本気で言ってんの!?」

「あぁ、本気も本気。てか、俺はそのつもりだったけど?」

「いきなり同居人が増えると親御さんにも迷惑なんじゃ」

「あぁ、俺、家族いないから」

「あの家に一人なんだ」

「あぁ、一階の部屋ほとんど使ってないからさ。遠慮はいらないぜ?」


 俺がそう言って胸をはると、ルナとシエルはしばし見つめ合った後同時にクスッと笑った。


「うん、じゃあ、遠慮なくそうさせてもらう」

「えっと、これからよろし」「よろしく。紅葉」

「ちょ……。最後まで言わせなさいよ」

「さて、じゃあ、早く帰ってあれするか……」

「「あれ?」」


 声を重ねる二人に、俺はニヤッとしながらこう告げた。





「決まってるだろ? ”歓迎会”だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る