第7話 魔法を使ってみよう③


ヤバイヤバイ!

空中でもがくものの手は空を切るばかりで掴まれるところなんてもちろんない。

下では俺が駆け上がる様を拍手喝采で見ていたロバート達が俺の異変に気付き慌てている。

あー!これが体操教室とかならマットレスあるのに!!


……マットレス?そうだ!これなら……!


俺は渾身の力を込めて地面に魔法を放った。


風よ吹けウイング!」

『ハヤテ!!!』


俺の放った魔法で落下地点に近寄れない皆は更に焦りを見せていた。その中心へと俺は落下する。


ボスンっ!


ありったけの魔力を込めた空気の塊は、俺を弾くようなことはせず無事受け止めてくれた。よ……よかった……上手くいった……!


ドサッ


俺を受け止めたあと風の魔法は消滅し、地上一メートル程の高さから地面に落ちる。手のひらを少し擦りむく。あと尻もちついたお尻が痛い……

魔法が解除されたことによってみんなが俺の所へ駆け寄ってきた。


「ハヤテ!大丈夫?!」

「アタシがもっと早く気づけてれば空中で抱き抱えて着地できてたのに……間に合わなくてごめんなさい!」


いや、ジェシカ姐さんに抱き抱えられて降りてきてたら俺、それはそれで恥ずか死んでたよ……


「てゆーか今の何?なんで風の魔力の上に落ちたのに弾き飛ばされてないの?」


ロバートの疑問はみんな思っていたらしく、俺は周りを囲まれてしまった。


「えっと……揚力を使った……って感じかなぁ」


そう、俺はあの一瞬でとても上手い具合に魔力を放出していたらしい。要は、発現地点から風を下から上へと円筒状に範囲を決めて出し、その下から上へと上がる空気の真ん中へ落ちた。そこで風の力と俺の重力のバランスが取れたところで浮いて留まっていたのだ。

昔、北斗と祐介たちと遊びに行ったインドアスカイダイビング、とっさに思い出せてよかった……!

理系じゃない俺は、揚力の説明をうまくみんなに出来なくて、とりあえず筒の中を風が真っ直ぐ進むイメージです、と雑な説明をしておく。


「風を一方向へ範囲を決めて放出……」


ジェシカがあごに手を当てて何か考え込んでいる。


「……ソレ、また新しい使い方かもしれないわ。アタシたち風の魔法は使うと必ず回転するものだと思ってたもの。確かに横に回転しないよう範囲を絞って一方向に出し続けたら発現地点は直進に風が出るものね」

「入って早々お手柄だなあ、ハヤテ。おれちょっと隊長に報告してくるよ」

「これ、攻撃にも応用が効きそうだな。ニコラス、俺も食堂で飯食ってるあいつに自慢してくるわ。歴史を揺るがす大発見に立ち会ったぜ!ってな」


ジェシカの呟きに乗っかるようにニコラスとハッサンは何故か大事おおごとにして二人連れ立って詰所の方へ戻っていった。いやちょっと、話が何だか大きくなってない!?

……ん?あいつ……?


「ハッサンが言ってた『あいつ』って……?」

「ああ、ライアンっつってオレと同じ攻撃メインにしてるやつ。魔法バカで、珍しい魔法とか大好きなんだよ。本人も魔力結構あるみたいで色んな魔法使えるんだけど、細かい調整出来ないヤツでさー。基本デカイ魔法しか使えない。あ、デカイって被害な。ハヤテも、もしあいつと行動することがあったら同士討ちフレンドリーファイアには気をつけろよ!」


味方を巻き込むほどのデカイ魔法……怖いけど見てみたい気もする……

ちょっと俺がワクワクしていると、その横でロバートが「ほえー……」と気の抜けた声を出していた。どうした……口が開きっぱなしでヤバイ顔になってるぞ……?


「いやー、身体能力の高さとか砂の城みたいな細かい魔力の調整とか魔法の新しい使い方発見とか、今日一日でハヤテにはずっと驚かされっぱなしなんだけど……」


ぽけっ、としているロバートを見て、ジェシカがそう言えば……と口を開く。


「ハヤテはどうして緑珠守護団ウチに?いつも新人って王都経由で入ってくるじゃない?でもハヤテの場合なんの前情報もなかったから」

「あー、言われてみれば確かに!いつも研修で何日か来てから配属されるよな」

「こんな優秀なら研修に来てれば絶対覚えてるし、そもそもさっき初めましてって言ってたから研修には来てないのよね?」


興味津々の目で見つめられる俺。なんて言ったらいいものか……と言葉に詰まっているとロバートが説明してくれた。


「実はさっき俺と隊長で森の主スフェーンを探しに森に行った時、その森の主スフェーンに体当たり喰らって吹っ飛んでたんだよ。で、とりあえずまだ息があったから回復魔法かけて連れ帰ってきた」


うん、正確には俺が勝手にあと追って着いてきたんだけどな。


「俺の全力についてこれてたから戦力になるかなと思って隊長に頼んでスカウトしちゃった」


とてもいい笑顔で二人にドヤ顔するロバート。

うん、スカウトってか拾った犬みたいな扱いしてたよな?忘れてないぞ?


「え!?森の主スフェーンに吹っ飛ばされて生きてたの!?」

「え、ロバートの全力についていけたの!?」


そして全く違うところに驚くマシュー先輩とジェシカ。

あれ、やっぱりそこみんな驚くんだ?ジェイドさんも確か最初そこ驚いてたよな?てか、みんな隊長って呼んでるから俺もそう呼んだ方がいいのか?ジェイド隊長?うーむ。


「ハヤテ……お前すげえな。ロバートの言う通りビックリ箱ジャックインザボックスみたいなやつだなー……」

「逆に緑珠守護団ウチでいいの?それだけ能力あったら王都の正規隊でやっていけるんじゃない?……もしかしてワケアリ?」


ジェシカがチラッと見ると、ロバートは頷く。


「うん、ちょっとね……森の主スフェーンに吹っ飛ばされた時に記憶も飛んじゃったみたいで……だから俺が色々基本教えてるとこ。今はとりあえず魔法かな」


俺、記憶がなくなったとか一言も言ってないんだけど、いつの間にかそんな感じになってるな……?でも周りからしたら常識全部吹っ飛んでたら記憶飛んだと思われるか。都合いいからそーゆーことにしておこう!


「ああ、そうだったの。だから演習場ここで魔法の練習してたのね。で、どうなの?魔法一通り試してみた?」

「うん、火と水はこれからの練習次第かな?土と風はさっき見た通りって感じ」

「魔力操作に慣れたらすげーことになりそうだよな!ハヤテ、攻撃系覚えたくなったら教えてやるから、そん時はオレんとこ来いよ!」

「アタシは風の使い方教えるわね。って言ってもなんかアタシの方が色々気付かされることがありそうだけど。楽しみだわ!」


ロバートもそうだけど、ここの人たちみんないい人だな。じわり、と優しさが目に染みる。これは汗だ。涙じゃない。

そっと目尻の汗を拭って気がついた。さっき擦りむいた手のひらにうっすら血が滲んでいる。

……あ!


「ロバート!俺、肝心なこと忘れてた!」


ずい!と手のひらをロバートに向けて言い放つ。


「回復魔法、教えて!」






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