第十話 緊急対処

急いで駆けつけると、リアンが三人の男と睨み合っていた。

「どれくらいで手を打つ」

三人の内、一番年かさそうな男が算段を促す。恐らく黒音を売り飛ばす為の。

「人身売買は違法だろ?」

「立件されればな」

リーダー格の右手の若い男が自信ありげに言う。

「難ならあんたが代わりでもいい。男も高く売れる」

左の男は値踏みするようにリアンを見る。

「録音してるが」

「役には立たないよ」

犯罪の証拠を録音されて右側の男は平然としていた。

「増員が来たぞ」

「日乃、通報は?」

黒音が付いてきたので若干不機嫌なリアン。

通報とは司法当局に緊急通報すること。

「したよ。五分で来るって」

「と言う事だが」

今度こそ、優位が取れたと得意になりかけたリアン。

しかし、リーダー格の男が何でもなさそうに言う。

「無駄な事を」



緊急車両は予告通り五分で現場にやってきた。


学食で日乃と別れてから、デートしていた。

仮り道、黒音のアパートへと向かう途中。

バス通りから一本入った所で声を掛けれらた。

「誰?知り合い?」

黒音は少し思い出すような仕草をして、

「全然思い出せない」

と答えた。

リアンと同じぐらいの背の高さの男に声を掛けられたのだが、無視しようとしたら他に男が二人やってきた。

三対二で対峙したが黒音はリアンの後ろに隠れ、実質三対一で対峙することになった。

初めの男と視線がぶつかり合い、互いに黙り込んだ。

黒音に合図をし、その場を去らせようとしたら、一人後ろに回り込んで、黒音を捕まえようとした。

リアンは黙ってその男の頬を一発殴ろうとした。

交わされたが、其の隙に黒音は逃げ出した。

殴ろうとした男がリアンを殴ろうとしたら、リーダー格の男に制止された。其のまま対峙したが、暴力沙汰にならず、前述の通りの言い合いになった。

回転する緊急車両の青色灯。司法担当員が事情を聴取する。

「それで、何で黒音さんに声かけたの?」

見た目もよく見れば、その辺のカジュアルな男が質問される。

男は邪気はないという邪気を放ちつつ答える。

「可愛いな、と思って」

「強制猥褻未遂には成らないんですか」

少し語気荒く黒音が尋ねると司法担当員が質問する。

「触られた?」

「いいえ」

嫌な感じはしたが、触られてはいなかった。

あの後対処しなかったらどうなったかは不明だが。

「傷害未遂なんじゃ?」

三人の男の方から軽くジャブを打ってくる。

「殴れた?」

司法担当員は此れも軽くかわした。

「いいえ。避けられました」

男達はあっさり引き下がる

「口論になったが、何事もなかった、でいいかな?」

司法担当員は状況を丸くまとめた。

報告書にサインを双方させると、司法担当員は緊急車両に乗って去っていった。

「言った通り。無駄だっただろ?」

司法当局が来ても振出しに戻っただけだった。

もう呼べないことを思えば実質敗退だった。



この件が司法の範疇外なのは解った。

仕方ない。

三人で一斉に逃げ出すことにした。

脱兎のごとく全力で逃げた。

アパートとは反対の方向に。



「狭い」

情報端末センターのフラット席に三人で逃げ込んだ。鍵が掛けられて、防音なので都合がよかった。店員はかなり訝しい目で見てきたが、別段問い詰めるでもなく、席を案内してくれた。初回利用だったので学生証を保障書類として会員権を作成した。

「何が駄目だったんだろう?」

「全部未遂だったからかな?」

「今回はな。放っておけば少なくとも脅迫、強要には成っただろう」

「やられてからじゃ遅い、のよ」

「司法当局ってあんな感じだっけ?」

「実は利用するの初めてだった」



「普通に暮らしてればそうだろうな」

『はぁ』

溜息が三人揃った。



「何調べてるの?」

「司法当局」

リアンは画面から目を離さず答える。

「何で?」

「不審だから」

ネットの検索で判る事と判らない事がある。

リアンはニュースの記事を一つ一つ丁寧に且つ高速に見ていた。

「こう言うの詳しかった、らしいね、坂下の見者」

オフラインでの解決の窓口を提示してみる。

オフラインのことをリアルともいう。

さっきのはリアルに属する出来事だった。

「法科出身なのか」

なんだか硬いリアン。

「さあね。もういない人だし」

あまり、大事態として見ていなかった。

「実家帰った方がいいかな?」

黒音は不安そうだった。

「その方が無難かな」

帰れる家が有る内は、有難く頼りたかった。



朝になってアパートに帰宅した。

幸い敵の姿も見えず。

隣が呼んだと思しき女性が玄関から出てきた。

「おはようございます」

「おかえりなさい」


黒音とリアンは今日はオジーへ戻るそうだった。

朝日が白くまぶしい。

朝飯を食べていないのを思い出した。

「バス停までですか」

「ええ」

「御一緒していいですか?」



聞きたいことは沢山有った。

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