気に入らないあの人

 ちょっとは手がかりを手に入れた。……と思ったのだけど。

 やっぱりというか、私じゃまったくセナさんの役に立ちそうにない。

 なので、本好きで物知りな拓真くんを頼ることにした。

 信じてもらえるかな、とセナさんと二人で心配したのだけど、あっさり拓真くんは信じてくれた。


「え、信じてくれるの?」

「信じるも何も、郷土史を調べてたら、結構出てくるんだ。『ソラリア王国』が」

「そうなの!?」

 あの絵本には、『他の国』ってなっていたのに、ちゃんと名指しされていたんだ!

「うん。でも、それがどの国を指すのかわからないから、謎のままだったんだけど……まさか、異世界だったとは」

 納得してもらったところで、私たちは拓真くんを連れてソラリア王国へ行くことに。

 

 そうしたら、拓真くんは次々に質問してきた。



「なるほど、サンルームの建物がたくさん集まっているから『ソラリア』なんだね。普通に衣食住ができるところを見ると、北欧のガラスイグルーに似ているけど」

「気温は15℃……こっちも春なんだっけ。じゃあ、緯度は間宮町より低いのかな? 僕らが住む場所よりあたたかいし。地中海気候? 異世界が地球みたいな星なのかわからないけど」

「大きな川があるね。海も近いんだ。ソラリア王国にも他の国があったってことは、交通要所として栄えて、力をつけたのかな?」


 な、何を言っているのかわからない。

 でも、さすがはセナさん。拓真くんの質問に、ちゃんと答えている。

 二人の世界だ……私は入り込めないな。

 寂しいけれど、それでも邪魔をしたくなくて、一歩後ろにいたのだけど。


 がずっと二人に腕を掴まれたと思うと、二人はものすごい必死な顔でこう言った。



「おねがいちーちゃん! 僕、女の子とあまり話さないからどうすればいいのかわかんない!」

「お願い千尋さん! 私、あまり同じくらいの歳の子と話したことないから、どうすればいいのかわからないの!」


「え、ええ~……」


 意外。二人は人見知りだったの。


「ちょっと待って。拓真くん、私と話してるよね?」

「ちーちゃんはちーちゃんっていうか……正直、男子より話しやすいし」

「セナさんは……そういえば、教室で誰かと話してるの、あまり見てないな」

「流行りの話に、ついていけなくて」


 そりゃそうだ。だってセナさん、異世界のソラリア王国住まいだもん。今流れてるテレビとか遊ぶ場所とかゲームとかわかんなくて当然だよ。

 今度一緒に遊園地に遊びに行こう!




 ガラスでできた宮殿を見て、拓真くんは目を輝かした。


「こんな大きな建物まで、ガラスで!?」

「城は王族の住まいでもあるから、陶器タイルで覆われたりしてるところも多いけど、ここは時期によっては国民も入れるスペースだから、ガラスでできているの」


 そして門をくぐった時、回廊から誰かが歩いてきた。

 げっ。


「殿下。おかえりなさいませ」

「ただいま、ヘリオス。こちら、私のクラスメイトの拓真くん」

「こ、こんにちは。お邪魔します」

「千春さんはもう知っているわよね」

「ええ。殿下のご友人なら、歓迎いたします」


 にこやかに答えるヘリオスさんだけど、私は知っている。

 この人は、私たちのことをとても嫌っているのだ。だってしょっちゅう睨まれるもん。ボソッとソラリア語っぽい言葉で悪態つかれてる気がするし。

 私もこの人嫌い! 数少ない、日本語が話せるソラリア王国の人だけど、仲良くできない!

 

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