【二次創作】カーくんのパン屋さん

宮草はつか

第1話 カーくんの悩み

 巣立ってまもないツバメたちが、夕焼け空をはしゃぎながら飛んでいく。蒸し暑かった梅雨晴れの日中とは打って変わって、今は涼しい風が網戸から吹き込んでいた。


「う~ん……、どうすりゃいっかなー?」


 オレは部屋の窓辺で寝っ転がりながら、手にした本をペラペラとめくっていた。

 ロールキャベツやローストビーフ、ちらし寿司といった豪華な写真が並んでいる。

 その本を閉じて脇に置き、畳の上に散らかした別の本を手に取る。


「こっちは、お菓子かー……」


 本には、イチゴのケーキやチーズケーキ、チョコレートケーキが載っている。

 ページをめくりながら、オレは唇をとがらせた。


「んんんー。うまそうだけど、いまいちパッとしねぇなー」


 もっと、「わぁっ!」って驚いてくれそうなのはねぇかな。せっかくの特別な日なんだ。少しでも楽しんでほしい。

 でも、いい案が思い浮かばねぇ。ため息をひとつして、開いたままの本を顔にかぶせた。ずっと考えていたから頭が疲れちまった。ちょっと、休憩……。


「ん? なんだ、この匂い?」


 目を閉じようとして、不意に、香ばしい匂いが鼻をかすめた。

 顔から本をどけて、起き上がる。鼻を動かし、周囲を見回す。

 振り返ると、いつのまにか押し入れの隣に、緑色のペンキで塗られた丸い扉が置かれていた。


「なんだこれ? こんな扉あったか?」


 ここには、まったく使ってない姿見が置かれていたはずだ。

 匂いはなぜか、この扉の奥から漂ってくる。バターを焼いた旨そうな匂いだ。腹の虫が、グウッと鳴きだした。

 オレは立ち上がって、手を伸ばす。不審に思いながらも、我慢できず、そっと扉を開けてみた――。

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