第22話 チームとは。



「いやー!いいお湯だったー!って芹那

ちゃんじゃない!」



「あら 部長さん。あなた達も呑気なものね。もうすぐ

大会だって言うのにのんびりしてていいのかしら?」



「...? どうしたの?」



「ふん…。精々もがくといいわ。それじゃあ」


芹那さんはそう言い残し、部屋へと戻って行った。 あんなに強い人がこんな所にいるなんて... しかもeスポーツ甲子園出場するって言ってた



「中山君あの子と何かあったの?なんか不思議な感じだったけど。」



「…いえ。なにも…。僕は寝るので。おやすみなさい。」



「…あら。どうしたんだろうね。」



「…。」



余計な心配はかけたくない。僕が強くなればそれでいいんだ。

チームの大将だから…




僕はあまり眠れないまま次の日になった。



「ふぁー おはようございまーすー」


「おはよう。あなた達すこし寝すぎよ。朝ごはん食べたらまた、

練習するのよ。裕太も今日までしか来れないって言ってたわ。」



「すみません。西蓮先輩を起こすのに時間

かかってしまって。」



「まぁいいわ。とりあえず朝ごはん食べなさい。」


僕はあまり食欲がなかった。昨日の事で頭がいっぱいだった。

ここ最近は橘さんともいい勝負ができるくらいまで強くなった。

だけどあんなに圧倒的な差を感じるなんて…



「中山君…顔色すこし悪いよ… 大丈夫…?」

しまった。少し考えすぎていた。橘さんには一番心配かけたくない。

僕の強さを信じているから…


「大丈夫っす。まだ昨日の疲れが少し残ってるだけなんで。」


「…。それならいいけど…」



強くならなくちゃ。僕が…



僕達は朝ごはんを食べ終え、eスポーツ施設に来た。


「おはよう。諸君。今日までは君達の練習相手になれるから

今日もがんばろうね。」


「は、はい! 今日も頑張ります!」


「よろしくお願いします。」


「僕は少し、トレモしたいんで2人は裕太さんと対戦しててください。」



「…そっか。じゃあ先に対戦しようか。」



昨日は単純な実力不足もあるけど、キャラ対策も甘かった。

まずは技とフレームを全部頭に叩き込もう。



(優のやつ…必死になってるな… キャラを見るにあの子に負けたんだろう。)



「さぁ 結構対戦したね。2人とも呑み込みが早くて教えがいがあるよ。」


「い、いえ! 裕太さんの教え方が神がかってるだけです!」


「あはは それは嬉しい言葉だね。お昼にしようか。近くにいい店が

あるからそこに行こう。」




「やったぁー! ねぇ中山君! お昼行こうよ!」


「…僕は大丈夫です。みんなで行ってきてください。」


「えー! 行こうよー! 中山君もお腹空いてるでしょー!」


「ほんとに大丈夫です…」


「せっかく沖縄来たんだから少しくらいだい…」


「だから大丈夫っていってるじゃないですか!」


施設内が静まり返った。


「…ごめんなさい。」


気まずい空気が流れた。何をしてるんだろう…


「すまない。西蓮君達は先に行っててくれないか。」


「…わかりました。」


西蓮先輩たちは先に行ってしまった。


「なぁ優。少し対戦しようか。」


「えっ」


「早く準備しなさい。」



父さんはそう言って対戦席に座った。そして芹那さんが使っていたキャラを選んだ。


対戦が始まったが全然ダメージを与えれない...


キャラ対策を叩き込んだのに僕は勝てなかった。 何が足りない? なんでこんなに僕は弱いんだ...



「格闘ゲームは1対1のゲーム。だから優が焦る理由もわかるよ。」


「...」


「でも優達が目指してる大会はチーム戦だ。個々の力だけでは勝てなくなってくる。勝負は1対1だけど気持ちはみんな戦ってるんだ。」



「だから優だけが焦った所で仕方ないんだ。みんなで頑張らないといけないんだよ。」



「でも、僕は大将だから...」



「あはは! そんな事気にするな! 優が大将で負けた所であの子達は優を責めたりしない。 それよりもみんなで戦う事を頑張りなさい。」



「みんなで...」



「優の問題はチームの問題だよ。勝ちも負けも全部一緒に共有するからチームが強くなるんだ。だから優はあの子達をちゃんと頼りなさい。」



「...わかった。」



「よし。じゃあ西蓮君たちを待とうか。」



「うん。」









「ねぇみくちゃんー! 私中山君にひどい事したかなー! あんなに怒ってたよ...」



「…大丈夫だよ。中山君はあんな事で怒ったりしない人だよ。きっと事情があるんだよ。」



「そうかなぁ... 後でもう一回謝ろう...」



「ねぇかなちゃん。ちょっと提案があるんだけど...」



「...提案?」







戻ってきたら西蓮先輩に謝ろう...

父さんの言ってた通り少し焦りすぎたのかもしれない。



「ただいま戻りましたー! ご飯美味しかったです!」



「あ、あのー 西蓮先輩...」


「裕太さん!夕方までぶっ続けで対戦お願いします!」



「...? まぁいいよ。」


西蓮先輩怒ってるのかなぁ...



「中山君は私と対戦しようか。」



「...はい。わかりました。」


謝るタイミング無くしてしまった。どうしよう...


僕は西蓮先輩に謝れないまま時間だけが過ぎて行った。橘さんも無言で僕と対戦をし続けている。


橘さんも怒ってるよなぁ...



「みんな、もう夕方だ。みんな本当に上達しているよ! 僕は今日までしか居れないけど君達なら大丈夫! 本戦目指して頑張って!」



「ありがとうございます!」

「ありがとうございます。」

「...」



「それじゃあ教えた事を自分たちに叩き込むといい。格ゲーはやり込みが大事だからね。それじゃあまた!」


忙しい中、練習に付き合ってくれた父さんには感謝しなきゃな。


でもこれからどうしよう... 気まずいまま民宿に帰らないといけない...



「みんなお疲れ様。今日はまだやっていく? 私は最後まで居るから、やってくなら民宿まで送って行くわよ。」



「今日はここまでにしときます! ちょっと行きたい所があるので!」



「わかったわ。また連絡ちょうだい。」



「はい!」


行きたい所ってどこだろう。僕はもう少しやっていこうかな...



「ねぇ中山君...」


「は、はい。」

久々に橘さんに声をかけられた。




「海行こっか」


笑顔でそう言われた。






「わー!綺麗! 2人とも夕日が凄いよ!」


「ふふっ そうだね」



西蓮先輩は海辺を走り回ってる。

急にどうしたのかな



「あの...橘さん。今日はごめんなさい...

僕のせいで2人を怒らしちゃって...」



「中山君... 私達最初から怒ってないよ。」



「えっ。」



「むしろずっと心配してたんだ。朝からずっと悩んでるみたいで... でも私達に言えない事なのかなって。」



結局僕は2人に心配かけてたんだな...

ちゃんと話そう。


「...実は芹那さんに僕負けたんです。しかも

eスポーツ甲子園の選手だったんです。圧倒的な実力差があって、こんなに強い人がいる

大会なのに、僕は大将を任されてるから強くならないとって思ったんです。それでみんなに心配かけたくなくて言えませんでした。」



「...そうだったんだ。」



「なに言ってるのよ中山君!」


「さ、西蓮先輩...」


「私達はチームなのよ! みんなの力があれば大丈夫よ! 不安なら私達がめいいっぱい応援してあげるわ!」



「それに、まだ合宿途中よ! 私達もこれから強くなるから安心して! 裕太さんにもいっぱい褒められたんだよ私!」



「そういう事だよ中山君。どんなに相手が

強くたって私達は負けないよ。だってこんなに心強い2人が居るんだもん。」



...2人とも凄いな。こんなにも気持ちが強い

なんて。


情けなかったな僕も。2人のおかげで負ける気がしなくなった。誰が相手だろうと関係ない。誰よりも強くなればいいだけだ。



「ありがとうございます。2人のおかげで元気出ました。 絶対本戦行きましょう。」



「ちなみにあんな大きい声出した事は怒ってるよ!」



「うぅ... それはごめんなさい。」



「ふふっ 冗談よ♡ さぁ2人とも夕日に向かって走るわよ!」



「今日は付き合いますよ... 行きましょう橘さん。」



「そうだね。」



この3人なら負けない。絶対予選勝ち抜くぞ。

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