第23話 アーテライト財団

「やっぱり、みんなもう到着してたんだなぁ」


 トラックを止めたヘリクは、本部内のブリーフィングルームに入った。

 部屋の中には任務でやってきた9の部隊長とノアの代表者5人。そして、メガネと黒スーツを纏う意味不明で怪しげな男が1人。ヘリクは一眼でその男に対し「あ、多分ロクでもない人だ」といった印象を覚えた。初見の相手に対し勝手な印象を覚えたヘリクだったが、しかしそれは明確な理由がある故だ。

 ヘリクは部隊長達の顔ぶれを確認する。その中にスキンヘッドのザンバルもいた。


「ザンバルも問題なく、か」


 彼の顔を見ると本当に安心する、そうヘリクは思った。

 ヘリクが入室して少し経つと、ノアの代表者5人の内ふくよかなお腹を持つ男が前に出て口を開き出した。


「全員揃ったようなので、これより会議を始めたいと思います。まず、アスオスの皆様方による物資の輸送、感謝します。我々無主地帯の人間にとって、皆様方の支援は生きる希望です。本当に、ありがとうございます」


 男はヘリク達にそう言う。するとそれに対し、11人の部隊長の内の1人が前に出て発言する。


「いえ、礼には及びませんよ。私達は1人でも多くの命を救いたい、そういう気持ちを持ってアスオスに加わったのです。我々にとっては、当然の行いです」


 丁寧な言葉遣いで代表して返答する青年。


 彼の名は“オリード・ミスト“

 アスオス第1部隊の部隊長であり、全部隊のトップに立つ人間だ。こういった場でも、彼が基本的に話を進めることになっている。


 オリードが言い終わると、代表の男は今度1人壁を真後ろにして立つ黒スーツの男に視線を向けた。


「そして、のソン・リンさんにも感謝を。我々の為にあれだけ多くのTTを提供していただき、誠にありがとうございます」


 そして黒スーツの男に対しても感謝を述べる。その行動に対し、ヘリクを含めたアスオスの部隊長達は良い顔をしなかった。

 ソン・リンと呼ばれたスーツの男は、タブレットを手に口を開く。それはいかにもビジネスマンのような風貌である。


「いえいえいえいえ、旧式なのが申し訳ないところではありますが、使い方次第では十分に化けますので、どうぞ使ってやってください。お詫びと言ってはなんですが、我々アーテライト製の新型を1機、サービスで提供させていただきました。戦場で使われなかった兵器達も、これで報われることでしょう」


 満面の笑みでそう述べるソン・リン。その顔をヘリクは気色悪いと思い、軽蔑の目を彼に向けた。


 挨拶を終えると、代表者の男とオリード、そしてソン・リンをメインに今後についての話し合いが始まった。内容は主にノアの発展と食料や医薬品などの支援、それと今後のTT配備についてなど。メインは彼ら3人ではあるものの、それは多数決などによる全員での話し合いでもあった。


 そして、ある程度今後についての話が決まると、会議は終了した。

 会議が終わった途端、ソン・リンはそそくさとブリーフィングルームを退出する。それを見たヘリクは悪態を吐いた。


「全く、TTについての話しかしてこないし。ほんと金儲けのことしか頭にないっぽいなぁ」


 ヘリクは1人そう呟く。そんな彼の声を聞いたザンバルは、近づきながら言う。


「そりゃそうさ。なんせ世界のアーテライト財団様だ。金が入んなきゃ話に乗っからないに決まってるだろう?」


 ザンバルの声に反応し、ヘリクは顔を向ける。


「まあ分かってるけどさぁ。アスオスがこの計画を進められてる理由も、あの財団がサポートの話を持ちかけてきたからだ。そりゃ金儲けにもなるさ。関係維持も考えて悪く言っちゃいけないのも分かるけど、あの財団は国にも街にもテロリストにもサポートするような所だからね。そんな所に良い印象なんて持てないさ」


 “アーテライト財団“

 それは世界的に有名で、強い影響力を持つ組織の名である。

 表向きは世界の大企業を金銭的にサポートする組織だが、裏では武器やTTなどの提供、横流し、また独自での兵器開発といった闇の顔を持っている。故にその面を知っている者からは「戦争屋」とも呼ばれている。

 そんな闇深い財団からのサポートは素直に喜べないというのが、彼らアスオスの本音である。


「気持ちは分かるけどなぁ。あんまり態度に出すなよ? ちょっと反抗意識を感知されるだけで、社会的に俺らが消されるからな。場合によってはアスオスは悪者だ」


「それ、君が言えることかい?」


 先程までの彼らの表情は覚えている。自身と同じようにあの男にいい顔は向けてはいなかった。昔の言葉で言うブーメランというものである。

 2人がそんなことを話していると、彼らにオリードが近づいてくる。

 オリードの整った顔立ちには、分かりやすい疲労に色が浮き出ている。

 そして彼はザンバルに言う。


「ザンバル、君も大概だ。もう少し自重してもらおうか」


 オリードは表情を崩してはいないが、少々困っている様子であった。難航する今後の計画。財団からの過度な軍備の話。これが中々にまとまらない。疲労が溜まるのも当然だ。


「逆にオリードはよく平然とした姿勢を保ってられんな。体調崩すぞ」


 腕を組むザンバル。


「人命の為と考えれば痛くも痒くもない。しかし計画の難航は流石の私でも頭を抱えるさ」


 オリードは微妙に肩を落とし、どうしようもない疲れを表す。部隊のトップとして張り切りすぎているのもあるのだろう。ヘリクは言う。


「まあそうだろうね。オリードの負担を僕らで減らしてはいるものの、それでも1人の人間の脳では厳しすぎる。たとえ優秀な君でも」


 それはオリードを心配しての言葉だった。その言葉に、彼はフッと鼻を鳴らす。


「優秀は言い過ぎだ。ただその方向に長けていただけの人間。ただそれだけさ。それに、今は私のことよりも君らだ。すまないが、もう次の行動に取り掛かってもらいたい。ザンバルは機体の整備が終わり次第、建物工事の応援に行ってくれ。ヘリクは医療支援だ。敵は死んでも風邪は不滅だ。ノア中心部で体調不良の市民達を頼む」


 オリードの頼みに、2人は「分かった」と頷く。そして、2人は各々の役割を果たす為に部屋を退出していった。







 計画会議所を出たソン・リンは、中心部を抜けた先にある船着場へと向かう。1時間後に同僚とそこで落ち合う予定があったからだ。

 「最早ここでの用は済んだ」、そう言わんばかりの迷いのない歩みである。

 彼はふと、中心部の市民の密集地に立ち寄ってみようと思った。それはただの気まぐれ故の行動だった。

 市民の住む場所に辿り着くと、無数のテントが彼を出迎えた。新品のテントではあるものの、機能としては小さいものだ。

 そんなテントの密集地の中を進んでいると、彼の目にあるものが止まった。

 白い髪に白い肌、そして白い実験服。まるで白雪のような少女の姿を、彼は目撃したのだ。

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