私とアイドルにならない?!

 ダンジョンに潜る事を決意したその日、私は三人の女の子を自宅に招き入れた。自宅が近く、小学三年生の頃からの幼馴染。それ以来、私達四人でいつも一緒に過ごしていた。


「お邪魔しまーす!」


 大きな声で元気に挨拶したこの子は春陽はるひ、ハルちゃんって呼んでる。元気の化身みたいな子で私達四人グループのムードメーカ的存在ね。

 さばさばした性格で、男の子からも女の子からも人気が高い。けど、本人曰く恋愛なんて考えられないらしく、「ヒメ達と一緒にいる方が楽しい!」と言っている。なんて可愛い娘!


「お邪魔します」


 最後に入ってきたのは、クールな女の子。名前は凛華りんか、リンちゃんって呼んでるわ。

 ユニセックスな見た目で、男装したらイケメンになりそう。そんな彼女は無口で時々冷たいセリフを発するから、周囲からは敬遠されている。けど私は知っている、この子が本当は優しい子だって。


「お邪魔しま~す♪」


 最後に入ってきた笑顔が素敵なこの子は結月ゆづき、ユズちゃんって呼んでる。本名は「ゆき」だけどユって呼んでるわ。

 私基準では学年で一番可愛い女の子であり、男子からモテモテ。だけど本人は恋愛に興味が無いらしく、恋人を作るつもりもゼロらしい。最近、リンちゃんに熱がこもった視線を向けているから、実は女の子が好きなんじゃないかと私は疑っているわ。



「今日は大事な話があってみんなを呼んだの」


 そう言って、私は三人を見つめる。三人は一瞬きょとんとしたけど、すぐにまじめな表情で私を見つめ返してきた。


「改まってどうしたの?」

「いつになく真剣だね」

「何々~?」


「これは三人の将来にも関わる事。嫌なら全然断ってくれてもいいんだけど……」


「将来にかかわる……。なんか壮大な感じ」

「続けて」

「ごくり」


「私とアイドルにならない?!」


「「「アイドル?!」」」


 三人が首をコテンと傾けた。まあ、突然言われてもびっくりするよね……。



 家庭の事情を話して同情を誘うのは避けたい。そう思った私は、「お母さんみたいにダンジョンで活躍したいの! 私達なら、最高のアイドルに慣れると思うんだ!」とやや婉曲に伝えた。


「アイドルとダンジョンって関係あるの? アイドルって、セクシーな格好で写真を撮られるんだよね?」


 ハルちゃんがうっふーんというようなポーズを取りながら聞いてくる。可愛い! もしこの子が雑誌に載る事になったら、私買うわ! ってそうじゃなくて。


「あはは。それはグラビアアイドルの事だね。私が言ってるのは、歌って踊って魔法をぶっ放すアイドル。知らない?」


「あんまりテレビとか見ないから知らない……。二人は?」


「知らない」


「私もダンジョンについては詳しくないから~。ごめんね」


 そっか……。確かに、ダンジョン探索って体力勝負みたいなイメージがあるからね。アイドルに興味が無いのも仕方がないか……。

※そもそもこの世界では「ダンジョンで戦うアイドル」が未発見



 いきなり説得に難航してしまった。しかし、そんな中助け舟を出してくれたのはリンちゃんだった。リンちゃんは私をじっと見つめながら言葉を発した。


「けど、面白そう。やってみても良いと思ってる。どうしても楽しめないなら、その時にまた考え直せばいい」


「そうだね、ハルも賛成! 歌うのは好きだし、魔法を使うのも楽しそう!」


「それに、ヒメちゃんが『やりたい』って言ってること、大抵が面白いから。私も興味あるかな~♪」


「みんな……! うん、ありがと。じゃあ、まずはアイドルになるために必要な事なんだけど……って感じ。親御さんの許可もいると思うし、もし説得に難航したらその旨も伝えて」


「「「分かった」」」



◆ハルの家◆


「ヒメにアイドルになろうって誘われたんだ! ママ、パパ、やってみていいかな?!」


「「アイドル?」」


「うん! 歌って踊って魔法を使うんだって!」


「(よく分からないけど)ハルがしたいなら、私は応援するわ」

「(魔法? ああ、舞台演出の事か)俺も応援するぞ」


「いいの?! ありがとー! で、もしできるなら、毎朝ダンジョンで練習するんだけど、大丈夫かな?」


(ダンジョンで? ああ、一階層の広場で練習するのね。一階層は公園みたいなものだし)


「分かったわ。確か中学生がダンジョンに入るには、許可書にサインが必要なのよね?」


「うん、これ!」



◆リンの家◆


「ヒメ達とアイドルを目指す事になった」


「そっか~! 頑張って、応援するわね!」

「パパも応援するぞ~! 凛華は可愛いからな、すぐにテレビで引っ張りだこになれるよ!」


「ダンジョンで練習する。サインして」


「そっかそっか。サインするわね! 練習、見に行ってもいい?」

「何時頃に練習するんだ? 早朝? ならパパも練習見に行きたいな!」


「来なくていい」


「えー反抗期? リンちゃん冷たいー!」

「いや、凛華が言いたいのは『完璧になってテレビで活躍する時まで待って』って事だと思うぞ!」


「もうそういう事にしといて。あ、サインありがと」



◆ユズの家◆


「いつもの四人組でアイドルを目指すことになったの~♪」


「そっか~♪ 楽しそう~、ママも混ぜて~」


「駄目だよ~! アイドルは恋人が居ちゃ駄目だから!」


「そっか、残念……」

「ママはパパにとってのアイドルだからな!」

「パパ~♪」


「ダンジョンで練習するんだ~。サインして~」


「は~い」




 ダンジョン内で死んでも、地上で完全復活する(だってゲームの世界だもの)。つまり、ダンジョン内部に危険はない。けど、死に戻りを経験してトラウマになる子がいるってお母さんが言ってたし、三人の親が許可してくれるかどうかは半分賭けだった。

 しかし、蓋を開けてみれば、全員の両親が許可を出してくれた。それも、その日の晩の内に!


 そういう訳で、次の日の朝から早速練習を始める事になった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る