第13話 お姉ちゃんと探索者修行

 茜さんをお姉ちゃんと仰ぎ、探索者としての特訓を付けて貰えることになった私は、セーフハウスでの食事を終えた後、早速上層で戦ってみることにした。


 身に纏うのは、歩実さんが地上で買ってきてくれたっていう、探索者向けの服。動きやすさと可愛さを両立した、配信映え? するやつなんだって。


 配信はともかく、新品の服は普通に嬉しい。より一層の気合いと共に、私はダンジョンの中を闊歩す。


「見ててね、お姉ちゃん! テュテレールも!」


“あれ、俺らは??”

“アリスちゃんの眼中にはない模様”

“悲しい。でも新しい服可愛い”

“それな。もうこのシーンだけでも永久保存”


「あ、忘れてた」


 てへ、と頭をかく私に、みんな“可愛い”と口をそろえてコメントする。

 ちなみに今回は、テュテレールとお姉ちゃん、二人で別々に同時配信している。


 たくさん見られてるなら尚更、私が探索者としてやっていけるってところをちゃんと見せないとね。


 今こそ、強化改良したバットとロケットパンチ君の力を見せる時!

 というわけで、この前と同じく三体の機械バッタと対峙する。


「発射!!」


 まずは先頭の一体に向けて、ロケットパンチ君を発射。


 大きな鉄塊を発射すると同時に、衝撃を後方斜め上と左右斜め下の三方向に分散放出し、反動で後ろに吹き飛ぶのを防止する。


 そうすることで、なんとか無事に攻撃することは出来たんだけど……放たれた鉄塊は、機械バッタに当たることなく明後日の方向に飛んでいった。


「ああ、外れちゃった!」


『────』


 ロケットパンチ君は、鉄塊を巻き取ることで何度でも使えるところが利点だけど、巻き取りに時間がかかるのが難点だ。


 その隙を突いて、機械バッタが突っ込んでくる。


「だけど、甘いよ。私には強化したバットがあるから!」


 私がバットを構えると、内部に仕込まれた超小型のブースターが点火。前みたいに思い切り振らなくても威力が出せるようにしたことで、より慎重に狙えるよう工夫した。


 更に、攻撃に合わせてバット本体がガシャン! と変形。バット本体の長さが伸びて射程が増し、更に当てやすくする。


 そんなバットを、向かってくる機械バッタに叩き付けて──ドゴォン!! と。


 地面に小さなクレーターを穿ちながら撃破した。


「よし、次……って、あれれ?」


 代わりに、バットが地面に突き刺さって抜けなくなっちゃった。


 どうしよう、と戸惑っていると、残る二体の機械バッタと目が合った。ひえっ。


「ポワーン! 助けてー!」


『────』


 私の呼び声に応え、ポワンがその体を武器として突っ込んできた。


 私と違い、狙い違わず機械バッタを一体仕留めてみせたポワンだけど、敵はまだ一体残ってる。


 あ、まずいかも──と思った瞬間、最後の一体がテュテレールの手のひらでビターン! と叩かれ破壊された。


『危険指数上昇、排除する』


「あ、ありがとう、テュテレール」


『礼には及ばない。それに、前回よりも戦闘能力の向上が見られるのは良い変化だ。偉いぞ、アリス』


「えへへへ」


 テュテレールに褒められたことで、つい照れ臭くなって頬を掻く。


 ……ただ、バットが引き抜けない状況は変わらないから、こっちもテュテレールに手伝って貰った。


 ちょっと恥ずかしい。


「……どうしよう、迷宮災害の時の手並みが鮮やか過ぎて安請け合いしちゃったけど、アリスちゃん本人が私の想像より大分どんくさいんだけど」


“お気付きになられましたか、茜ちゃん”

“超ドジっ子だぞ”

“この前なんてバット空振ってすっぽ抜けてたしな”

“それを思えば成長してるのは確か。多分”


「周りをテュテレールや護衛ロボットでガチガチに固めれば探索出来なくはないけど……基本的にはその場にいないでいてくれた方がパーティとして強い……!! アリスちゃん一人で見たら三級のライセンスすらまだ早い……!! これに何を教えろと……!?」


 あれ、なんかお姉ちゃんがものすごく頭を抱えてるんだけど、どうしたのかな?


「お姉ちゃん、どうかした?」


「……アリスちゃんは、探索者として自立するのが目標なのよね?」


「うん、そうしないとテュテレールにずっと頼りっぱなしだから」


 それがどうしたの? と問い掛けると、お姉ちゃんは私の首根っこを掴んで、ひょいっと抱え上げた。ほえ?


「なら、モンスターと戦うのは十年早い。まずは動かないサンドバッグ相手にちゃんと当てられるように練習しようね」


「十年!? お姉ちゃん、十年も経ったら私、今のお姉ちゃんよりずっと年上になっちゃうよ!?」


「うん、今のアリスちゃんより六歳の頃の私が戦った方がマシだと思う」


「えぇ!?」


 私、もう十三歳だよ!? 何なら、表向きはお姉ちゃんと同じ十六歳! 信じてくれてるか分からないけど!


 それなのに、お姉ちゃんから見たら私は六歳児以下なの!?


“アリスちゃん六歳児説w”

“さすがに笑いすぎて腹痛いw”

“大丈夫、そんなアリスちゃんが俺は好きだぜ!!”


「全然嬉しくなーい!!」


 視聴者のみんなに慰め(?)られながらも、私は思い切り反論する。


 私、そこまで子供じゃないもん!! って叫ぶけど、返ってくる答えは“可愛い”とか“そういうところが子供っぽい”とか、そんなのばっかりだ。むむむ。


「ねえ、テュテレールもそう思うよね!?」


 仕方ないので、私はテュテレールに救援を求めた。


 テュテレールならきっと、私を擁護してくれるはず! と、そう思った私に対して、テュテレールはこくりと頷く。


『確かに、アリスの身体能力、及び戦闘能力は、ダンジョンの恩恵もあって通常の六歳児はおろか、成人男性をも大きく凌駕している。アリスを六歳児と称するのは不適切だろう』


「ほら! テュテレールもこう言って……」


『ただし、こと運動能力に関しては、一般的な同年代の基準値を大幅に下回っており、身体能力の高さを全く活かせていない。私は西城茜の提案に賛同し、アリスに静止目標に対する攻撃トレーニングを推奨する』


「…………」


 まさかの裏切り(?)に何も言えなくなった私は、ぷいっと顔を背ける。


 そんな私に、みんなから“拗ねた顔も可愛い”なんてコメントが押し寄せて来たけど、必死に気付かないフリを押し通すのだった。

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