大切なもの全てに裏切られた俺は心が壊れてしまった

はる

失恋

「おはよう真弥翔(まやと)!」


そんなふうに明るく声をかけてきたのは幼馴染の下宮 美奈(しもみや みな)だった。


「おはよう…美奈」


俺は眠気まなこで美奈にそう挨拶を返した。


「眠そうだねー」


美奈は俺の方を見たながら微笑んだ。そのちょっとした仕草にドキッとしてしまう。なにせ俺は美奈のことが好きなのだから。


「…目が覚めたよ」

「え?なんで?」


美奈は不思議そうな顔をしてそう言ってきた。


「いや、なんでもないよ」

「え!な、なになに?」


慌てている美奈を見て自然と笑みがこぼれる。そんな姿も可愛いだなんて…反則だよな。


美奈とは小さい頃からずっと一緒だった。それこそお互いがお互いを1番知り合っていると確信するほどに。だから美奈が少なからず俺の事を思っていてくれていると確信している。だってそうだろ?好きでもない男と毎日一緒に登校したりしないはずだ。


俺と美奈は他愛ない話をしながら学校に向かった。この時間がたまらないほど愛おしい。こんな時間がずっと続けばいいのに。


だがそんな時間はあっという間に終わりを迎えてしまった。


「あ、ついたね」


そう、学校についてしまった。


「じゃ、また放課後ね」


思わず引き止めてしまいそうになる自分を自分で押さえつけて笑顔を見せる。


「あぁ、またな」


俺と美奈はクラスが違う。だからこんな会話をしている。さぁ、いつまでも嘆いてはいられない。俺も教室に向かうか。


教室に入ると俺はある人物の元に向かった。


教室の隅で一人本を読んでいる彼女の元に。


「よ、おはよ」


その人物、島百合 花(しまゆり はな)はフレームの細い丸ぶち眼鏡をこちらに向けてきた。


「あ…お、おはよ」

「その本、面白いのか?」


俺は島百合が読んでいる本を指さしてそう言った。


「うん…面白いよ」


彼女は優しく微笑みながらそう言った。


「へー…俺も何か読んでみようかな…」


それは独り言のように放った言葉だった。だが彼女はそんな言葉を聞いていた。


「そ、それなら私がおすすめの本を持ってくるよ」

「ほんとか?じゃあ頼むよ」

「うん」


彼女は嬉しそうに微笑みながら返事をしてくれた。


あぁ、最高に嫌な気分だ。島百合と話している時の自分は汚らしい汚物に思えてしまう。俺がなぜ彼女と仲がいいのかって?それは俺の気持ちの悪い同情心のせいだ。


彼女は元々1人で誰とも関わりが無かった。島百合はいつも暗い顔をしていた。俺はそんな彼女を不憫に思ってしまった。だから話しかけた。


島百合との会話は楽しい。知らなかった世界がどんどん自分の中に流れてくる。だがその反面、自分の気持ち悪さによる嫌悪感も流れてくる。島百合と仲良くなればなるほど自分が嫌になる。


なら関わるのをやめればいい。そう言われてしまうかもしれない。だが本当に反吐が出る話なのだが、島百合と話をしたい自分がいるのだ。気持ち悪い。


罪悪感と嫌悪感に包まれながら俺は島百合との会話を終え自分の席に戻った。授業が始まる。


授業が終わり放課後になった。


俺は学校の前で美奈を待っていたが一向に来る気配が無い。どうしたのだろうか?いつも通り一緒に帰るつもりでいた。今朝も「また放課後ね」と言って別れたはずだ。


俺は美奈を探し始めた。


そんなことしなければよかったのに。


俺は学校中を探した。教室、屋上、図書室。だがどこにも美奈はいなかった。そして最後に校舎裏を確認した。するとそこには少し離れたところに美奈の姿があった。


「あ、いた。おーい、み」

「突然呼び出してごめん」


俺は美奈を呼ぼうとしてやめた。なぜならそんな声が聞こえてきたから。


「誰だ?」


俺は目を細くして美奈と話している相手を見た。そこにはひとつ上の有名な先輩がいた。イケメンで成績優秀、スポーツも万能だと有名な先輩だ。そんな先輩が美奈になんの用だ?


まぁ大体予想はつく。美奈は今から告白されるのだろう。


「俺は…君のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」


ほらな。美奈はお世辞抜きで可愛い。この学校1番だと言えるほどに。だが俺は美奈が告白を断るという確信があった。なぜなら俺と美奈はお互いを想いあって…


「…わかりました。よろしくお願いします」

「…え?」


思わずそんな呆けた声が出てしまった。


「っ!真弥翔!?ち、違う!これは違うの!」


美奈が何かを叫んでいる。だが俺の頭の中には何も入って来なかった。


「…は、はは。なんだよ。俺だけかよ…俺だけが好きだったのかよ」


考えてみれば当たり前の話だ。美奈は学校1と言っていいほど可愛い。対して俺はどうだ?特になんの特徴もない平凡な男だ。それがただ幼馴染だからといった理由で美奈も付き合えるなんて…そんなことを考えた俺が馬鹿だった。美奈はどんな男でも選べるんだ。俺みたいな男を選ぶ理由が無い。


「よ、よかったな!美奈!じゃあ俺は用事があるから先帰るな!」


俺はできるだけ笑顔を貼り付けて明るくそう言った。


「待って真弥翔!」


当然その呼び掛けに応じることなく走り出した。走って走って走った。足の筋肉が悲鳴を上げているがそれでも走ることをやめない。あぁ、明日絶対に筋肉痛だろうな。


不意に頬に水分を感じた。雨か?そう思って空を見てみるも雲ひとつない晴天だった。


分かっている。これは自分の涙だ。涙が自然と溢れてくる。


なんで。なんで俺じゃないだよ。なんでそんなやつの告白受けたんだよ。


違う。美奈は何も悪くない。ただ俺が勝手に失恋しただけだ。いつまでも告白しなかった俺が悪いんだ。


こんなことならもっと早くに告白しておけばよかった。そんな後悔の言葉はいくつも出てくる。でもそんなものでこの現状が変わるわけじゃない。きっと俺が先に告白しておけば…何も変わらなかっただろうな。そう、こういうのを負け惜しみというのだ。俺は負け犬だ。


自分が恥ずかしくて情けなくて嫌になる。


もう何もしたくない。家に帰ろう。



【あとがき】


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