第38話 情報収集第五PHASE 決着――二人の英雄(前)


 意識が暗闇の中に落ちた。

 次に目が覚めると、真っ暗でなにも見えない。

 大袈裟かもしれないが自分が立っているのか座っているのかそれとも浮いているのかすらわからない不思議な感覚を体験する。

 辺りを見渡してもやっぱりなにも見えない。

 あるのは暗闇だけ。


「うぅ~よく寝た、ほわああああ~」


 呑気な声が聞こえた方に身体を向けると暗闇が晴れていき徐々に自分が今どんな状態なのかを理解できるようになる。

 どうやら浮いているらしい。

 ただし目の前の人物を除くとやはりなにもない空間と言えばいいのだろうか。


「ここは?」


 刹那の言葉にどうやらこの空間のもう一人の住人が気づく。


「……なんでここにもう一人の俺?」


 その言葉に「はっ?」と驚く刹那に「あぁ~、遂にここまで来たのか」と一人勝手に解釈し始めたもう一人の俺を名乗る男はどこかめんどくさそうに起き上がっては後頭部を手で掻き始める。


「その様子からして唯が魔法枷解除術式(マジックコード)を渡したわけではないようだな。ってもそのヒントは前に与えていたし、先日の戦闘経験を糧にここにリンク……偶然だろうがとりあえず合格というわけか」


 自分と瓜二つの男は説明口調でぶつぶつとなにかを言い始めた。


「まぁいい。俺はお前で。お前は俺というわけだ。簡単に言えばいつもお前が話かけてきた心の中の意思が俺。とりあえず俺の自己紹介はこれで終わり」


「はっ!? ちょっと待て! 意味がわからないんだが……」


「難しく考えるな。いつも話かけてきただろ? それが俺だってことだ。もっと言えば和田家が開発したオリジナル魔法『文字』の審判者だ。とりあえず端的に説明してやるからまずは聞け。いいな?」


「お、おう……」


 その場の勢いに押された刹那は向こうがその気ならとりあえず話を聞いてみることにする。見た感じすぐに元居た世界に帰れそうにもないし、慌てても仕方がないと心の中で一人思う。


「そうだ。慌てても仕方がないんだよ」


 どうやら本当にもう一人の俺だと認めるしかないようだ。

 心の声が筒抜けになることは今までもう一人の自分に対してしかなかった。

 つまり過去の体験談から察するに嘘ではないようだ。

 まじかよ……こんなこと現実にあるのかよ……。

 口に出さずとも相手に伝わる恐さをこの日生まれて初めて知る刹那。


「この世界ではそれがある。それで話を戻すが俺は審判者だ。この世に流通している魔法の多くは個人の熟練度によって魔法効率が大きく変わる。上手い奴が使えば一流、普通の奴が使えば二流、下手な奴が使えば三流。だが和田家のオリジナル魔法は幾ら熟練度をあげても必ず三流で止まる」


「あっ!」


「唯の言葉をちゃんと覚えているようだな」


「と、とうぜんだろ……っ!」


 声が震えたのは、、、わ、忘れていたわけ……じゃないよ?


「美乃梨」


「……えっ?」


「美乃梨」


「なんだって!?」


「美乃梨!」


「んんっ? ワンモア!」


「み・の・り・って何度言わせるんだ、もう一人の俺!!」


「だったらハッキリ俺に伝わるように言えよ、もう一人の俺!!! はい、ワンモア・カモン!!!」


「み・の・り!!!」


「あぁ~みのりね。んで、それってなんの名前?」


 初めて聞く名前に本気で聞き返す刹那に罪悪感などは一切ない。

 唯が過去を思い出すことになってあまり話たがらないので、この世界に来てからずっと和田家について実はそんなに詳しくないだけの刹那に、はぁ~とため息を見せるもう一人の俺。


「いや、すまない。冷静になれば俺はわかっていたはずなんだ。唯の意図を汲み取れず御手(わんっ!)をする知能しかないってことぐらいな……」


 まるでどうしようもない哀れな人間を見た時のような目でこちらを見るもう一人の俺に対して刹那は一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、幾ら性格が悪くてもこれも自分だと思うことで耐える。


「まぁ、落ち着け」


「いや、怒りの原因は百パーセントお前なんだが」


「そうか。だったら話を進めるとしよう」


「おい! 嘘でもいいから表面上だけでも謝れよ!」


 叫ぶも全然反応してくれないもう一人の俺は勝手にこちらの意志を完全に無視して話を続けようとするもう一人の俺。

 自分のことは自分が一番わかっているつもりだった。

 でもどうしてだろうか。

 ここ最近相手した中で断トツに息が合わないと思えるのは。

 はぁ~と刹那もため息を見せて「どうぞ、もうお好きに続けてください」と諦めの言葉を言う。


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