第26話 情報収集第四PHASE 偽造作戦――面会


「ここは支配人室や。ここなら周りに気を配る必要はないで」


 ガラステーブルを挟んで対面に座る三依はしばらく俺の目を見て言葉を続ける。


「さよが信じた刹那はんを我は信じとる。だから我からはなにも言わへん。だけどあの子は……さよは人質に捕られてもスパイを通じて我にこう言ってきた。刹那はんを止めてくれと。行くつもりなんやろ?」


「……それは」


 言葉に詰まる。

 もう誰も巻き込みたくないからだ。

 それに短い期間だったけど俺のためにあそこまで頑張ってくれた大切な恩人を見殺しにはできない。


「サルビアホテルの医師から何回止められたん?」


「七回ぐらいです」


「三日で七回……はぁ。あのなぁ~、その身体で行けば今度こそ死ぬで。それでも行こうとする理由を聞いても?」


「理由なんてありませんよ。俺はただ助けたいと思った。なによりこのままが嫌だと思った。唯さんのあんな顔は見たくない。なにより唯さんをあそこまでボロボロにした奴が許せない。そんな感情が俺に動けと心の中で叫んでくるんです……だから、」


「あのなぁ、刹那はんが赤の他人なら別に我は止めんよ。でも会うのは今日が初めてでも実際は違うねんな。刹那はんが死ねば唯はんだけじゃないあの子も悲しむ。だから後のことは我に任せて今はゆっくり休むとええ」


 後は全部こっちでやるから。その言葉はお前ではもう力不足だと宣告されているような気分になってしまう言葉。まるで子供を説得する母親のように優しい口調で投げかけてくれる三依に思わず涙を見せてしまいそうになるもグッと堪える。ここで泣いて三依に甘えることで全てが無事に解決するならそうする。だけどそうじゃない以上、ここは我慢して意思を強く持たないといけないと使命感でそう思ったからだ。


「これはIFの話しや。もし刹那はんが野田家の跡取り息子に返り討ちに合い敗北したとする。その時、誰が潰れると思うか考えてみるとええ。それでも行きたいと言うならバックアップは我に任せてくれてええ。っても客観的に自分を見て考えるにしても今は医師が処方しとる魔力減動剤をなんとかせえへんことにはどないならへんか……」


 三依は「……やれやれ」と言って立ち上がった。


「三依さん……?」


「……今の刹那はんにも時間がいると思っただけや。それとこれは我の意思やない」


 三依はポケットから手のひらサイズの小さな注射器を取り出して目の前のガラステーブルの上に置く。


「これは魔力を促進させる魔力促進剤。つまりは我が雇っとる医師が刹那はんの魔力活動を抑えるため副交感神経を刺激して行動を抑制するために処方した薬の真逆や。ポケットに入れて置いても邪魔やけん我はこれをここに置いて行く。その間に誰かが取っていくかもしれへんけど、我な記憶力悪くて忘れてしまうかもしれへんのや。だからもし忘れとったらちゃんと言うてな、刹那はん」


「……えっ? ちょっとどこへ?」


「女の子にそう言うのは聞かん方がええで。お手洗いや。なんなら一緒に来てもええけど……変態と自覚した上で飲みたい言うなら我はそれを受け入れるで」


「……えっと……遠慮しておきます」


「そうやね。それがええ。それとこれは独り言ばってん、猶予は明後日の朝やったかいな。ほな、また今夜話そうや、逃げたらあかんで。その時に色々と聞かせてや。この後唯はんと話して刹那はんの意思がどうなったのかを」



 最後になぜか笑みを見せた三依は支配人室を出て行った。

 俺は唯と少し話さなければいけないと思い唯が待つ部屋へと向かった。



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