第23話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――タイムリミット


 俺はアレを有効的に対処する手段を持ち合わせていない。次から次に振り込んでくる悪夢。元は戦争がない平和な国で生まれ育ち、この世界に転移してから魔法を覚えた一般人に総次郎のような魔法が扱えるわけがない。

 攻撃を躱すことで当たらない場合でもその都度攻撃面積を大きくするため巨大化し、その度に形状を変えてくるとなると今の俺では対処が難しい。と、人の思考を読んだかのように巨大な十字架となった炎は勢いよく頭上から落ちてくる。まるでその巨体を持って人間を潰すかのように。


「……【氷】!」


 俺はとっさに左足を氷で覆って力技にはなるが十字架を蹴り飛ばした。

 一つ勘違いしていた。巨大な十字架となってもスピードは変わらないようだ。左足に激痛が走って、あまりの痛さに目から涙が止まらない。


 ブォォォォ!!


 と間髪入れずに槍の形に形状変化して俺の身体を狙ってくる。

 再び蹴り飛ばそうと試みるがタイミングが合わず間に合わなかった。左わき腹を容赦なく貫いた槍。それを右手で強引に引き抜く。氷で覆った右手に力を入れるが、槍が持つ熱が全て遮断されるわけではない。

 手の平が焼けるように熱い、なんて感じている暇はない。混乱する脳を精一杯動かして次の一手を考える。すると、あることに気付いた。総次郎の視線がさっきから俺だけでなく『ゴッドフェニックス』にも向けられている。だが、まだ八割程度と完全覚醒までには時間がある。そして総次郎の狙いになんとなく気付いた。


 【暴走】を使い抵抗ができなくなった俺を確実に『ゴッドフェニックス』で消し炭にする気なのだろうと。


「いいぞ、後少しだ」


 総次郎が独り言を呟いた。

 さらに別の方向からも声が聞こえた。

 俺は意識の一部をそちらにも向ける。

 その声は無視できない魂の叫びのよう。


「私が殿をしますので今は唯様を連れて逃げてください! その男は間違なく刹那様を唯様の前で殺そうとしています。今刹那様が死ねば間違いなく強いショックを今一度受けるに違いありません。そして唯様が……自我を失い生きる理由をなくし抵抗する力を完全に失えばこの汚らわしい者たちに捕まり好き勝手されることになるかもしれません! 貴方様は二度同じ悲劇を繰り返してなりません!」


 その言葉はさよの言葉だとすぐに理解した。

 だけど納得はできなかった。

 なぜなら納得してしまえば――またしても敗北を認めることと同義だから。


「……ッ!?」


 再度チラッと視線を向けて、総次郎自身が攻撃してこないと踏んだ俺はさよの方に視線を向けると、龍一の護衛二人を倒したさよが総一郎と戦っていた。そしてさっきまで総一郎と戦っていた唯は既にボロボロになっていて、今は頭を抑えて息を荒くしている。まるで強い頭痛に襲われているようだ。


「えっ……、、、」


 綺麗な肌から滴る赤い血。

 外傷は酷くないようだがかすり傷が酷い。

 もっと言えば額から汗を流しているのだが、これは頭痛から来るものなのだろうか。

 だとしたらそんな状態でさっきまで総一郎と闘っていた唯はもう外傷以前に限界なのかもしれない。


「私のことはいいから! 退きなさい、さよ!!! これは私の問題だから!!!」


 身体に刺さって邪魔な槍を引き抜くため上半身だけでなく下半身にも力を入れる。

 手の平の皮膚がメラメラと燃えるような熱さに焦げるような感覚。だけど今の唯の姿はそれを忘れるほどにあまりにも信じがたい状態だった。いつも万能のイメージがある唯が同じAランク魔法師相手にここまで後手に回るなんて。口では強がっているがもう立ち上がるのも限界なのかフラフラとしている。それでも震える足に力を入れて生まれたての小鹿のように不安定な状態でまだ戦おうとしている。さよの好意や考えを全て理解していながらも、そんなことは関係ないと。これは自分の戦いだと、言いたそうな力強い瞳は敵である男を睨むようにして向けられる。


「やめてください! それ以上は危険です!」


「止めないで! 私は私の人生を滅茶苦茶にしたコイツ等を絶対に許されない! そして刹那を危険な状態にした私自身を絶対に許さない!」


 俺は一瞬頭上の『ゴッドフェニックス』と近くにいる総次郎の存在を忘れてしまいそうになった。

 それほどに唯の言葉には覇気がある。


「刹那様! 今ならまだ間に合います! 御決断を!」


 俺の言葉でも止められないと判断したさよが大声で叫んできた。要は俺以上にやっぱり唯はこの二人を憎んでいるのだろう。そして俺と唯の復讐はどこか似ていてどこか違う。それは当然のこと。だけどこれだけはわかってしまった。恐らく唯は止まらない。

 この期に及んで逃げるという選択肢はあってないようなものだと。

 仮に唯がその選択肢を選ぶとしたら、余程のことがない限り選ばないだろう。

 どこまでいっても今の唯を確実に止める方法がないのなら覚悟を決めるしかない。

 俺は力を最大限まで引き出して炎の槍を手に取り、下半身の重心を落として足の裏に力を溜める。


『来るぞ!!』


「さぁ、目覚めよ――」


 寒気がした。視界の隅で遂に『ゴッドフェニックス』が本来の姿になったからだ。


「――全てを零へと導く神炎は全てを焼き尽くす深紅となりて地上に舞い戻った――」


 大きな二枚の羽が動く度に熱風が肺を襲う。そんな熱風を簡単に作りだすゴッドフェニックスの鋭い眼差しが俺へと向けられる。


「――飛翔せよ鳳凰(ゴッドフェニックス)!」


 力強い言葉が聞こえ終わる前に俺は大勝負に出た。

 炎の槍を力で我が物とした俺は足の裏を爆発させ、馬鹿の一つ覚えでありながら【暴走】を使い限界まで加速し炎槍を総次郎の心臓へと向かって突き刺す。

 ゴッドフェニックスが完成し油断していた総次郎の心臓を炎槍が貫くと魔力の供給を失った炎槍が消滅していく。同じく総次郎の心臓を貫いてほんの一瞬油断した俺の背後からゴッドフェニックスが襲い掛かる。


(しまっ――ッ!!)


 総次郎の魔力供給が途絶えても体内に蓄積された魔力がすぐに底を尽きることはないようだ。間違いなく魔力消失による消滅前に俺の身体を焼き尽くすだろう。


 そのまま照準を合わせたミサイルのように急降下するゴッドフェニックスは巨大な大爆発を引き起こして消滅していく。辺り一面の地面が赤くなり土や岩が溶岩のように溶けだし、景観を司っていた木々が燃え火の海となる。そんな環境の中で揺らめく二つの影があった。



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