第16話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――デート


 堂々とすると決めたはずの俺は途中から恥ずかしくなり、話しの趣旨を世間話へと変えることでなんとかカモミールモールへ到着する頃には心臓の高鳴りが平常運転へと戻り体温も平温まで下がってきた。


 カモミールモールはとても広く綺麗だ。

 最近オープンしたばかりで人が多いのだが、敷地内の至る所にグランドオープンを祝って各店舗が割引セールの告知をしている。モール内の通行路には各店舗前に店舗スタッフがいて、客引きをしている。


 俺とさよはそんな店員の一人に声を掛けられて今は服屋にいる。

 なんでもさよ曰く同棲するにしても服がなければなにも始まらないと言うわけらしい。

 まぁ、流石に、なんだ。

 俺の常識が正しければ、裸族ではない俺が真っ裸生活はたしかに考えられない。

 そんなわけで俺はカモミールモールへ到着時にさよの提案を了承した。

 そこでさよは服を選んでは自分に重ねて俺に感想を聞いてくる。

 性格上なのかさっきから大人しい印象がある服装ばかりを選んでは俺にどうかと聞いてくる。

 正直似合うとは思うが、普段と変わらないのでは? と思ってしまいどうも上手く言葉を伝えることができずにいた。

 それを見たさよは俺の反応が気にいらないらしく「う~ん」とかれこれ十五分近く悩んでいる。


「では、これなんかどうでしょう? ちょっと露出が激しいように思えますが、本で男性はこのような服装を好むと読んだことがありますし、刹那様のご期待にも応えられるのではないでしょうか」


 もし本当に着ればフリフリのワンピースはさよの綺麗な肌を露出するだろう。

 自分で着た姿を想像したのか、少し照れている姿がまた可愛い。


「絶対に似合うと思います!」


 思った事をありのままに伝えると、


「そ、そうですか? お世辞がお上手ですね」


 と、言葉では謙遜しているが、表情と態度から喜んでくれていることがわかる。

 頬が緩み嬉しさを隠しきれていない。

 ただ当の本人にそれを伝えるともう見せてくれないかもしれないので、俺は見て見ぬふりをする。


「なら、これを買うことにします」


「えっ!?」


 驚く俺を置いてさよはそのままレジに商品を持っていった。

 あれ? これ演技だよな?

 そんな疑問を抱える俺を知ってか知らずか、会計を終わらせたさよが俺の元に戻ってきては「まぁ、着る機会があればお見せしますよ」なんてことを甘い声で囁いてくるものだから首を傾ける結果となってしまった。


「気を付けてくださいね。さっきから見られていますから」


 ボソッと呟いてきたさよに俺は「はっ!」と自分の使命を思い出す。

 演技だからといって割り切っていては相手を騙せない。

 だからこそ全力で恋人を演じるのだと、ようやくさよの考えを理解した俺は自らさよの手を握って「では、次は向かいの電気屋さんに行きましょう!」と声を出して引っ張っていく。


 そんな俺とさよとすれ違った金髪の美女に俺はもう一つ大事なことを途中から忘れていたと思い出した。


 変装した唯の存在である。


 すれ違っただけでわかってしまった。

 如何に上手く変装しても雰囲気的なもので俺はその金髪美女が唯であると本能的にわかってしまったのだ。


「あら? 刹那様がだらしないあまり見に来られたのかもしれませんね」


「あはは」


 俺は苦笑いしかできなかった。

 そんな俺に引っ張られるさよと一緒に同棲した場合に必要な家電を見に向かう。


 当然そこには俺たちだけでなく、俺とさよ。

 そして、謎の金髪美女と喫茶店で見た男二人。


 三人共俺とさよが見える場所で別の物を見ているが、俺とさよが動けば動くと俺たちの動きはある意味連動していた。


 かと言って、攻撃されるわけでもないので買物と言う名の下見(演技)は続く。


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