第14話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――開始


 同時にさよはあることを心の中で懸念する。


 もしペンダントが野田家の当主に渡っていた場合、復讐の先に待っているのは恐らく達成感と絶望になるだろう、と。


 野田家の当主もまた異世界人であり、Aランク魔法師。跡取り息子が殺されたと知れば間違いなく避けられない戦いが始まる。その時、刹那は、そして唯は、一体どうするつもりなのか、と。



 ■■■


 翌日――偽造作戦決行日。


 唯の提案でさよと偽の恋人を演じることになった俺は手をしっかりと繋いで街を徘徊している。

 昨日はスーツだったが今日のさよは別人だった。


 昨日は後ろで纏められていた髪がハーフアップになり、服装も膝上までの水色のスカートで上は生地が薄い白色とかなりラフな格好だった。女性にしては背が高いさよは黒のヒールを履いており、そこからスカートの奥深くへと続く薄いストッキングはさよの綺麗かつ長い美脚をより際立せ、大人の色気を魅せてくる。


 やると決めたら、とことんやる意思を感じずにはいられない。


 恋人繋ぎの手を通して伝わってくる柔らかい女の子の手の感触と温もりに俺の心臓が無性にドキドキし始めてしまう。


 頭では演技だと判っているはずなのに、心が勘違いしてしまう。

 左手に持った小さなハンドバッグもまたさよの女性らしさを魅せている。


 そのためか、さっきからすれ違った人たち、特に男性の視線がさよに向けられる。そのついで感覚で俺も見られるという現象がさっきから起きている。


 綺麗な女性の笑顔は人を虜にする魅力が高いかもしれないが、平凡な男が緊張した顔はきっと見るに堪えないだろう。どう見ても釣り合っていない偽の恋人作戦はある意味目立つと言う意味では早速大成功を迎えていた。


 向けられる視線は一般人の者だけではない。

 恐らく俺が気付いていないだけで野田家の分家の者ともう一人。

 さっきからなぜか貫くような視線を背中に感じている。

 なんとなく誰かわかる。振り返って見ない方が良い気がするので直接確認こそしていないが唯が見ている気がする。


「ふふっ。今日は沢山楽しみましょうね♪」


 昨日とは打って変わって口調まで違う。

 到底演技とは思えない笑顔が眩しい。


 緊張の素振りを全く見受けられないさよはデートを楽しむ振りをしながらさっきから周囲の状況を把握しているのか視線を自然な形であちらこちらに飛ばしている。


「そんなに慌てなくても時間はまだ沢山ありますよ?」


「何を言っているんですか? せっかくのデートですよ! 沢山の場所に一緒に行って想い出を作りたいじゃないですか!」


 ペースを握りたいのに握らせてくれないさよではあるが、なんだろう昨日より心を開いてくれている気がなんとなくする。

 もしかしたら演技で別人になっているからそう感じるだけかもしれないが、なんとなくそんな気もさっきからする。


「わかりました。では、まずはあそこに行ってみませんか?」


「いいですよ。ふふっ、朝ご飯まだだったんなら気軽に言ってくれればよかったのに。もう、刹那様ったら」


「す、すみません。そ、それもそうですよね、あはは」


 俺は心の中で思う。

 このデート疑う余地なく俺がリードするのではなく、さっきからリードされている気がする、と。



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