第11話 情報収集第三PHASE 偽造作戦開始


 そのまま唯は、俺の目を真っ直ぐ見てきた。

 真剣な眼差しが俺の背筋を伸ばし、瞳の中にいる俺の表情が自然と険しくなっていく。


「それでどうやって分家の者と接触するのですか?」


「方法は簡単よ。刹那とさよが恋人のふりをして誘き出すのよ」


 自信満々の唯の言葉に思わず驚いてしまった俺とさよ。

 それもそのはず。

 真面目な話しをするかと思いきや、まさかとんでもないことを言い出したのだ。

 それも真剣な表情で。


「はっ!?」


「えっと……意味がわかりかねますので説明をお願いできますか?」


 申し訳ないがさよに同意である。

 唯は「やれやれ」と小言を言ってから少々めんどくさそうに説明を始めた。


 先に言っておくが、幾ら師弟の関係でも全てを察する事は無理だ。

 俺は超能力者でもサイコパスな人間でもない。

 それはさよも同じ。


「龍一は多分相当刹那を恨んでいると思うわ。それに本家の二人には黙っていたようだけど実は龍一も私に昔から気があったと思うのよ。結構アプローチ的な事は人目盗んでしてきてたし。だから尾行を使って刹那のことを調べていたと思うのよね。さっきのさよの説明を聞くにだけど。だったら幸せそうに刹那が彼女と思われる人物と手を繋いで街中を歩いていたら、龍一はどう思うかしら?」


 もう大体言いたい事はわかった。

 頭がいいからこそ、今知りえた情報から瞬時に最適解を出す事ができるのだろう。

 羨ましくも、凄いと素直に思える。

 だからこそ、俺は師匠である唯を尊敬している。

 他にも尊敬している理由はあるが、恐らく戦術的作戦立案において唯は数多くの経験から論理に基づいて解を導きだしているのかもしれない、と最近よく思うことがある。

 相手の立場に立って物事を考えられる優しい唯だからこそできる芸当の一つなのだろう。俺もいつかはそんな風になりたいと思う。


「嫉妬ですか、唯さん」


「そうよ。あくまで、え・ん・ぎ・!!! をするのよ」


 三文字だけとても強調されたが、とにかく演技をするのだな。


「嫉妬させて恋仲を邪魔してやろうと企んできたところを逆に狙うのですね。でも嫉妬相手なら唯さんでもいい気がします。なぜ私なのでしょう?」


「それは簡単。龍一は私と刹那の関係を知っているわ。当然私と刹那がデートしても期待できる効果は限られる。となれば、第三者の協力を得ることがより合理的だわ。それもこちらの事情を知り、いざという時の敵襲を考慮しそれに見合う実力があり信頼関係もある人物のね」


「つまり利害が一致する私とお二人。そしてお互いのことをある程度把握している以上私なら危険にさらされても特段問題はない、と言うわけですね」


「そうゆうこと。まぁ、もっと言えば……色々と安全だから? ってのもあるけど」


 すると、さよが俺を見てきた。

 それはそうだろう。

 なんたって俺と一緒なんだ、俺が守ってやるんだから!

 それは夢のまた夢。

 俺を守れる人間で、と唯はきっと言いたいのだろう。


 そんなことを考える俺にさよがクスッと笑って「本当に仲良しですね」と小言を言ってきた。


「ちなみにいつからするんですか? 流石に今日は足がクタクタで動かないです」


 弱気になる俺に唯は優しくしてくれる。


「明日からよ。明日は私が龍一の尾行を尾行するから安心してね。それと今日は頑張ったから先にお風呂入ってゆっくりしてきなさい。その後足揉んであげるから」


「でも唯さん。唯さんが先の方がいいかと……」


「いいのよ。私が女だからって遠慮しないで。私は一番でも二番でもいいから」


「ほぉ~、唯様は何番でもいいのですか」


「さよ? 変なこと思ってそうだから先に言っておくけどお風呂の話よ?」


「えぇ、勿論。わかっております」


「ってことで刹那。行ってらっしゃい。たまには私に甘えることも弟子の務めよ」


「は、はい。ではお言葉に甘えて行ってきます」


 俺は唯の好意を素直に受け止めることにした。

 本当なら一番風呂は唯の方がいい気がしたのだが、唯があぁ言うのだからたまにはお言葉に甘えさせてもらう。


 それになんとなくだけど。


 さよも唯と二人で話したいことがありそうな感じがさっきからする。

 それは唯も同じ。

 久しぶりの再会だと考えれば積もる話もあるだろう。

 特にさよのようにプライベートと仕事の切り替えがしっかりしてそうな人は第三者がそこにいると己の使命を全うしようと完璧であり続けようとする傾向がある、と昔前いた世界の本か何かで見た気がする。

 なので、邪魔者はお風呂で一日の疲れを癒すことにした。


 そのまま、お風呂場へと行く俺の背中にはどんどん小さくなっていく二人の会話が聞こえてきた。


 ただし、なんて言っているのか会話の内容は声が小さ過ぎてわからない。



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