第40話 かぶと虫番外編でございますザ・ファイル


太陽の灼き尽くさんばかりの光が相変わらず穏やかな海面に反射してキラキラとしている。

それがまるで宝石のように見えて、冥利に尽きるなと雲一つない空を見上げた。



夫 暑いね


妻 ほんと。これじゃあ、

  魚も煮えてるんじゃない?


夫 そうかもね。釣れないね……


妻 そう言えば……

  うちの息子、あれは無かったねぇ


夫 何だったかな


妻 ほら大学卒業後、就職してほら……




二人して変わりない海面を眺めたまま、懐かしいあの頃を思い出す。





息子 親父、就職先が実家の近くになったんだ


夫  おー!それはよかった。早く住むところ

   見つけないとな!


息子 姉夫婦も今一緒に住んでるとか……

   で、俺の部屋まだ空いてる?



夫  あー……空いてるけど



息子 取り敢えず今度の休み家行くから



   

大学の近くで一人暮らししていた息子からの突然の電話。


まさか流石にそれはないだろうと、深く考えもして居なかった





息子 最近家賃も高くて、初任給安いから

   落ち着くまで実家から通うわ。

   俺の部屋空いてるんだよね....?


夫  えー!突然こんな狭い家に来て

   どうするつもりだ!

   姉夫婦も居てるのに……



息子 俺ほとんど寝るだけだから、多分

   大丈夫!邪魔にならないって!



夫 .......



妻 仕方がないじゃないの、賑やかで良いわよ!


夫 何が賑やかだ!もう成人してるのに……

  初任給が安いからと何を甘えてるんだ!


夫 (何が仕方がないだ!昔から息子には甘 

   過ぎるんだ!)


息子 「おねーも居るんだし、

    一人増えても変わらないでしょ

    親父はおねーに甘いからなぁー」


夫  ......


(なんて言い返そう、言葉が出ない)



妻 「そうよ!皆あたし達の可愛い子供!

   猫ちゃんもワンちゃんも大切な家族

   困ってる時はお互い様よね!

   パパ、頼りにしてるね」


 (何もしないくせに偉そうに文句だけ言って

  本当にムカつく)


夫(簡単に何でも決めて、いつもこうだ!

  腹が立つ)



夫 「お母さんがここまで言うなら、

   お前もお金貯まるまでとの約束での上で

   帰ってきても良い。約束だぞ」



  (いつも甘やかすからこんな息子になるんだ

   妻の責任だ!)



そうして我が家にはまた一人、家族が増えた


とゆうか、戻ってきた




夫 「おい、ここはリビングだそ!

   テレビ台に物置かないでくれ、片付けろ」


(全くいつもこうだ!落ち着か無いリビングだ)

  


妻 「家狭いのだから仕方がないよね?

   そうそう、息子の部屋にも

   棚作ってあげてよ、どうせ暇でしょ」


(文句ばっかり言って棚でも作れば?

 暇なのにソファーでじっとしてるだけでしょ)



夫 ......


(暇だ暇だと馬鹿にして、腹が立つ)



翌日、息子の部屋に棚を作った夫


テレビの前はまた整理されて綺麗になった。


その後も騒がしい我が家はずっと


相変わらずだった






妻 ねぇ、喉乾いたね


夫 おい、糸が引いてるぞ


妻 やったぁ!また鯵かなー?


夫 大きそうだ……!


妻 ダメ重い!変わってよ


(本当に気が効かない、むかつく)


夫 よし、わかった!


(子供みたいだな。)




妻 「何ニヤニヤしてるの、早く変わってよ」


  (気持ち悪いなぁ何よ、)


妻 やったー!大きいね!これまた鯵かな?


夫 これは、元気な鯖だね



少し大きめの鯖


大きなクーラーボックスに少し大きめの鯖


夫 帰ろうか!


妻 そうね、

  今日は鯖の塩焼きね


夫 〆さばがいいな


妻(日に焼けて疲れてるのに、めんどくさい。

  心の無いクソジジイだ)



今日も相変わらずの日常、変わらない毎日




あれからもう何年経つんだろう?


息子も、娘夫婦も、我が家から出て行った


二人きりの生活、


愛犬も愛猫ももうそれなりに老いてしまった。


孫のお守りも楽しみの一つだが、


相変わらずの妻には本当に呆れる毎日だ



はーい!次、十七番、


三番ホール、ポストにお願いしまーす!




夫 おい、お前の番だぞ


妻 えー、よぉーし!!



カーン




勢いよく転がった玉は、ゲートを外れ溝の中に


妻 もー!あなたが喋りかけるから、腹が立つ



帽子の中の妻の横顔は少し怒っていたが


なぜか愛らしい昔のままの妻に見えた。



次、十八番 


三番ポール、ポストにお願いしまーす!




妻 ほら、何してるの!ニヤニヤして気持悪い

  あなたの番よ!早くしてよ



今は二人で楽しむご近所さんとのグランドゴルフ



もう死ぬまで一緒だろう


でも、出会えてよかった


ありがとう……





カーン





澄んだ空気が高い音で震えて、ボールの音がやけに響いて聞こえる



妻 なんか言った?聞こえないわ

  耳まで悪くなったのかしら……



そう言って見た夫の背中が小さく見えた、



お互いに、歳を取ったね

 

この人は私が守らなきゃ


本当にありがとうパパ


死ぬまで一緒にいてね




こうしてまた変わらない日が穏やかに過ぎていく


死ぬまでずっと同じ毎日だとしても、


結局あなたと一緒に過ごす日が最高に幸せで


最高にムカつく!








最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


これでかぶと虫は最終回とさせて頂きます。


ご愛読ありがとうございました。



































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