やっぱり僕は、紫帆が好き

「紫帆のことが好きってー…本当?」

単刀直入な結翔の言葉。静かな怒りを宿した、小さな声だ。

「い、いや別にっ」

「隠さなくていいよ」

僕の話は聞いてもらえず、一方的に睨まれる。僕が幼馴染みの紫帆が好きだってこと。それは紫帆達しか知らないはずだ。なんで、なんで…コイツは僕の好きな人のことを知っているんだ。警戒心を抱きながら頭をフル回転させる。もしかして、結翔に言ったのは紫帆なのか…?

「あはっ、なんで焦っているのかな夜瑠くん」

柔らかい笑い声が、今は地獄の冷笑にしか聞こえなかった。ナイフのように鋭い、氷柱のように冷たい視線を感じる。うぅ…、なんだか気分が悪くなってきた。その時だった。その時僕は、気まずそうな顔をしながら微笑みを浮かべる彼を見た。

「結翔と…夜瑠。なんでこんな所にいるのよ」

…紫帆だ。口を小さく開けて、怖いものでも見るように結翔を見ている。結翔は焦ったように茶色く染められた髪の毛を触り、紫帆に話しかけた。

「よっ、紫帆。ってか、紫帆なんでここにいんの?」

紫帆の問いにはとことん無視をして、甘い声を出す。癖になる甘美な囁き声は、なんだかとても心地が良い。結翔は紫帆に近づいて、紫帆の綺麗な黒髪をサッと撫でた。

「トイレ、かな。…トイレはグラウンドにあるけど、まぁいっか」

かなってどういうこと?僕は作ったようなその言葉に問いかける。天然すぎる。心の声が、ポロリと出てしまっている。…じゃあさ紫帆、なんでここに来たの?

「『かな』ってどゆこと~?わざとらしすぎるよ紫帆」

ははっと軽く笑うイケメンが、僕の心の声を読んでくれたみたいだ。以心伝心だ(全然嬉しくない)。ずいぶん歯切れが悪いけど、紫帆はがんばって理由を話し出した。

「…ーえっと、グラウンドのトイレは汚いから」

「でもここ、3階だよ?2階のトイレの方が近くない?」

「…ーえっと、2階のトイレは違う学年の子も使うから!先輩とかと鉢合わせちゃったら気まずいし」

「3階も他学年の人が使うよ。なんなら先生も」

「…ーえっと、3階のトイレは落ち着くから!」

「トイレが落ち着くの?」

「そう!住んじゃいたいくらい!」

「やっぱり紫帆は可愛いねw」

天然爆発している美女と、それをからかう美男(美女はからかわれていることに気付いていない)。やっぱりカップルみたいだ…あぁ、苦しい。


それにしても…今日の紫帆は変だ。結翔とは仲良しなはずなのに、なんだかおかしかった。緊張したように警戒するような目付き。結翔と仲良くするところを僕に見られたくないのかもしれない(ごめん紫帆、許して(涙))。

「じ、じゃあ僕は先に戻っているね」

そう僕が呟くと、やっと紫帆と目があった。涙で大きい目がうるうるしている。えっ、紫帆どうしたの!?心配になって近寄るけど…。

「紫帆のことは大丈夫。君は戻って」

イケメンの一言は怖かった。

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