第35話 驚くほど居心地のよい恋心

 今日もトレーシーはいつも通りに研究開発部の部屋で研究開発に勤しんでいた。


 一つ変わった事と言えば、視線がなんとなくアルバスの姿を追い始めたことだ。


(なんだかドキドキします)


 トレーシーはアルバスに助けて貰った日以降、自分の恋心を自覚した。


 気付いてみれば、なぜ今まで自覚が無かったのか不思議なくらいだ。


 アルバスは優しい。


 アルバスは賢い。


 アルバスは美形であり、侯爵家の令息であり、トレーシーの先輩である。


 なにより、相性がよい。


(でも、ちょっと……小説にあるようなドキドキとも違うわ)


 小説に出てくるようなドラマチックな感じではない。


 恋愛小説に出てくるような大げさなものではなくて。


 ちょっぴりだけ、毎日が嬉しいような、楽しいような、くすぐったいような。


 とても、居心地のよい恋心。


 それはとても、日常によく馴染む。


(むしろ……なぜ今まで気付かなかったのかしら?)


 よくよく観察してみれば。


 アルバスはトレーシーへの好意を隠すことなく接するも必要以上に立ち入ることなく、少し離れたところから見守るようにいてくれる。


(私は、アルバス先輩のことが……好き。アルバス先輩は私のことが……)


 仕事中に、ふっと恋心を自覚して挙動が不審になるトレーシーを、トラントたちは不思議そうに眺めていた。

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