事情説明2

 仕立て屋のジャックさんは私を見て、優しく、けれど念を押すように言葉を落とす。


「レイさんからね、ハナのことは頼まれてるんだ。乱暴にはしないけど、事が事だったら相応の対処をする。いいね?」


 いつも身だしなみに気をつけているジャックさん。

 その薄く化粧を施された顔から、圧がかかる。


「う……でも」

「いいね?」

「ぐ……」


 ジャックさんも、ていうかここにいる皆、私を案じて集まってくれてる。

 けど、それでイグル様が悪く思われたりしたら……。


「……ハナ、ぼくは大丈夫だよ。なんとなく分かったから」

「へ」

「外で待ってればいいんでしょ? ちょっとハナと離れるだけ」


 言って立ち上がり、繋いでる手をきゅっと握って。


「みんな、ハナを大事にしてるんだね。ぼくもだから心配ないよ」


 その手を離して、クレイグさんへ向き直った。


「それで、どこ行けばいいの?」

「あ、おお。ただ部屋の外で待ってりゃ良いだけだ」

「そっか」


 そしてそのままツカツカと、ドアへ向かっていく。


「いや待て待て! 一応な、一応お前は俺達の間にいてもらうから」

「ふうん」


 急に動き出したイグル様を追いかけて、クレイグさん達は出て行ってしまった。


「……始まる前から、色々あったけど」


 ベティの声に、振り返る。


「さあ、言った通りに。ぜ・ん・ぶ! 話してもらうよ? ハナ」


 私を見つめる八つの目。心配と不安とそこから来てると思いたい怒りとなんかもう──


「ひいぃ」


 皆さん! 怖いです!




「はあん?! リベスの街から二日かからずに着いたあ?!」


 そこか。まあそれなりに驚くよね。


「まあ、なんか走ったら、意外と距離を稼げたみたいで」


 誘拐はみんな、なんとなく想定していたみいであまり驚かれなかった。人が一人忽然と消えるなんて、人攫いか精霊様に連れてかれるかくらいだもん。それも分かる。


「ハナ……あなたどんどん逞しくなっていくわね……」


 頬に手をやって言ったのは、ハリーさんの奥さんのエリアルさん。


「ぃえへへ」

「いや褒めてねえわ」


 ベティ、つっこまないで。これは照れじゃなくて、苦笑いだから。

 本当はイグル様の力が関係してるはずだから。


「ま、その行動力と馬鹿力で窮地を切り抜けられたんだから、良いじゃない?」


 そう言ったのは、酒屋のデイジーさん。

 デイジーさんの所のお酒は、このマーガレットにも卸されてる。


「あたしはそれが心配だけどねえ。一度攫われると、そいつは攫われ易くなるって言うじゃあないか」


 ドーラさんが腕を組んで、上から下まで私を眺める。

 今ここで一番の年長者の、産婆でもあるドーラさんは、とっても心配性の人。さっきの診察もとても丁寧に念入りにされたし。

 今のこれだって、しっかり確かめたけど心配が抜けなくて、私の身体をまた診ているだけだ。


「あー聞くなあ。いっそ何日かハナの家に見張り付ける?」

「そんな大仰な」


 ベティの提案に首を振る。そんなにしてもらわなくても──


「一度経験しましたからね! 同じ様なことに遭った時、どう対処すればいいかは分かります!」


 なんで全員で溜め息を吐くの。


「ハナぁ、お前なあ……あんたなぁ……」

「ベティ、話は聞き終えたし、最悪は免れたって確認も取れたし。皆に戻ってもらってから言ってやりましょ」


 にっこり笑って、エリアルさんがそんなことを言った。なんですかそれ怖いんですけど?



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